それは陶酔者

最も性質の悪いモノ

　レグスは顔が強張っていくのを感じた。口が渇いて、舌を動かすのも気持ち悪い。

　それは紛れも無く・・・・。

「・・・・白い天使だと、一体何故に・・・」

　そして通信パネルに映る下卑た笑いは。

「ギリアム大将！？」

　ますます訳が解らない。あの機体は半封印状態で安置されていたはず、そして最後のぎりぎりになる

まで、本当に最後の最後まで使わないはずだったのでは。そう悩む頭に癇に障る声が浸透する。

「愚劣なる者達め。神の前に滅するが良い、アハハハハハハハハハハハハハ！」

「大将！？どう言う事ですか？それに味方まで！！」

「ん、レグス少尉ですか。これはこれは・・・・、役に立たない貴方達に代わって私が帝国等一瞬で滅

ぼしてやろうと言うのですよ。そして役に立たない貴方達も一緒に滅すれば良いのです。元帥閣下には

名誉の戦死と報告してあげますよ、アハハハハハハハハハハ」

　白い天使に搭載された霊機の所為か、声がやけにクリアに脳に響く。不快音を大音量で聴いているよ

うに苛立ちが胸の辺りに込上げて来る。

　そして白い天使の八つの帯が煌く度に放射された閃光は、敵味方構わず次々と貫いていく。そして閃

光に触れた部分は蒸発するように霞の如くゆらゆらと消えていく。

「止めろ！ギリアム！！」

「少尉如きが私に命令するとは、この愚か者め。神の裁きを受けるがいい」

「くッ！？」

　レグス機は降り注ぐ閃光を８の字に旋回しつつ、白い天使から距離を取る。

「全機後退しろ！帝国機に構うな！！」

「しょ、承知しました」

　一斉に撤退し始める機兵達。逃げ遅れた機体は周囲の大岩ごと蒸発していく。

「アハハハハハハハハハハ」

　そしてギリアムの高笑いが戦場を支配する。

「レグス様！」

「マリエル様、大丈夫でしたか！早く撤退しましょう、もう帝国と争っている場合ではない！」

「は、はい」

　レグス、マリエル機は一目散に白い天使の射程範囲外を目指す。

「なっ、ん、いかん！！全機撤退せい！」

　ドランクもハッと我に返るとすぐさま全機に撤退命令を通信した。

「ドランク！？」

「イザリー、今は引くぞい。あの白い奴は何だか知らんが、危険すぎる！！さあ、わしの機体に掴まれ、

武装も解除するのだの」

「解った、すまないドランク」

　下半身の動かないイザリー機はドランク機にしがみ付くようにして、背中のバーニアを全開にする。

　その間も絶え間なく閃光が降り注ぎ、辺り一帯の全ての物がその度にごっそりと消えていく。そして

当然のように精霊力レーダーに映る点滅も消えていく。

「むう・・・、せめて何人かだけでも逃げ果せてくれればの・・・・ん、通信かの？」

「ドランク機兵長」

「おお、ゼロライムか。お主も早う逃げい、その機体なら充分逃げられるはずだの」

「嫌です」

　しかしゼロライムはきっぱりと拒絶した。こう断言するのを見たのは初めてかも知れない。

「嫌って・・・お主・・？？？」

「せめて一矢報いてからにします」

　そう告げるとゼロライムはぷつりと通信を切ってしまった。

「な、お、おいゼロライム！」

　ドランクと言えども、今はただ逃げるしか無く。

「あの機体なら或いは・・・・」

　せめて逃げ切ってくれと心で祈りつつ、馬鹿者と罵倒しつつ。イザリーを連れて撤退する事に専念す

る事にした。苦渋に満ちた決断ではあったが・・・。

　ただあの黒い悪魔の力を信じるよりは無かった。レイウスすら扱えない程の力を、そしてゼロライム

の可能性を。　　　　

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