それは険しき道のりか

荒天航路

　白い瞬きがオーロラのように白天使を覆っている。

　明減を繰り返し、薄いガラス越しのような柔らかな日差しが降り注ぐ。

　不思議な懐かしさと、絶対的な恐怖と無力感に襲われ。その前では下らない意地や虚勢など、無慈悲

に霧散される。

「正気ですか！？あんなのに立ち向かうなんて・・・」

　小パネルのシルフも強張った顔で、それでも諦めたように納得したような、そんな落ち着いた声で問

いかけて来る。ゼロライム自身も考えれば考えるほど、馬鹿げた事だと思えるのだから何も言い返せな

い。ただ、無言の是。

「・・・・気をつけて下さい。この黒い機体も敵と同じですから・・」

「それは違うさ、シルフ」

「え？」

「何となくだけど、こいつは何も乗り手をどうにかしようとしているんじゃなくて。ただ、暴れたいだ

け。そんな気がする」

　ゼロライム落ち着いた澄んだ眼で白天使を見据える。

　今もその身に纏う八つの帯から出る閃光が無慈悲にあらゆる物をあらゆる所から消し去っている。

「よし、やるぞ！！・・・・・でも、やっぱり怖いかも」

「・・・・・・・・・」

　白い眼で冷ややかに見詰めるシルフ。

　そして開き直りも出来ないくせに、強情な一人の青年。

「ともかく、戦闘システム再起動！！」

　二度目の起動、それも正直怖い。テストも出来ないこの黒い機体は何もかもが未知数で、そういう意

味では眼前の白天使と同じなのかも知れない。

　限界タイマーが刻み始める。

「怖さならこっちが上だ！行くぜ、ディアボロス！！」

「そんな問題ですか・・・・・」

「行くぜ、サタナキア！！」

「・・・・・リョウカイ・・・シュツリョクジョウショウチュウ・・・」

　シルフの突っ込みも似合わない気合で無理矢理ねじ伏せ、ディアボロスの翼状ブースターを雄々しく

広げ。出力機関の駆動音が激しく高まっていく。

「ブースター全開！！」

　ディアボロスが反動を付けて大地を蹴り、そのまま大気を切裂きながら白天使へと飛翔した。

「ぐがががががががが！」

　身体に襲い来る衝撃も以前の比では無かった。ディアボロスはあらゆる自然法則を無視し、重力から

解き放たれたかのように無限に加速し続ける。

　そしてゼロライムは本当に飛んだのに実は一番自分で驚いていたりしている。

「ぐうううううう！」

　ただ、今は身体にかかる重圧に耐えるので精一杯だったが。

「せめて・・・一発・・・ぶん殴って・・やる！！！」

　黒い弾丸は一瞬で対象との距離を消し去り、瞬く間も感じず白天使に激突した。

「つあああああああッ！！」

「なッ・・・・！？」

　黒と白が接触し、あらゆる力を凌駕する衝撃と轟音が唸り飛んだ。　

　その瞬間全ての者が天を仰いだ・・・。

「レクレリー元帥閣下！」

「どうしたのかね、ルース准将」

　共和国、レクレリー元帥の執務室にこのような訪問者が訪れる事は珍しくは無い。

「そ、それが・・・・白い天使が持ち出されたと・・・・」

「何ッ！！？」

「どうやらギリアム大将が持ち出したとの報告が・・・」

「警備兵は何をしていたのだ！！」

　レクレリーは彼にしては珍しい怒声を何度も放つ。

「あの馬鹿者が！至急対策会議を始める、将官を呼び寄せよ！」

「ハッ！」

　秘書官が綺麗な金髪をなびかせて、颯爽と走り出る。

「レクレリー元帥閣下！！」

　入れ替わりに情報士官が駆け込んで来た。

「今度はどうした！？」

「ハッ、前線基地からの入電です！白い天使に現れた、至急応援請う！」

「応援だと、どう言う事だ・・・・。ルース准将、至急レグス少尉と連絡を取ってくれ！」

「ハッ、お任せ下さい！」

　レクレリーはそれぞれに役目を与え、混乱させる事を防いだ。そして、自身も考えるのを後に回し、

状況を把握する為に動き出す。

「あの、愚か者めが！」

　人知れずギリアムを罵倒しながらも。

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