可哀想な一名

激昂の衝動

　轟くような機体同士の激突音が響く。

「レグス少尉、バルキリ―隊が奇襲に失敗！どうやら逆に待ち伏せされる形になったようです」

「くッ、流石に機体の盲点を突いて来る・・。バルキリ―にはレーダーは付けられないからな・・・。

それで戦況はどうなっている」

「ハッ、損害はありましたが何とか持ち直したようです。敵軍前衛二部隊への牽制は成功しております」

「よし、ならば一気に行く。接近戦へ移る。ウンディーネ全機、全速前進！」

「了解！！」

　ブースターとバーニアを吹かし、蒼い機体を中心に矢の陣形で一直線に敵陣へ切り込む。

　弾丸が迎え撃つように飛来し、精霊力で生み出された水膜を貫いた弾が数弾ブロックするように、前

で構える両腕を掠めて行く。

「少尉、１、４番機片腕を破壊されました！」

「構わん、片腕が残れば充分だ！」

　防ぎきれず、直撃を食らった機体を鼓舞して更に速度を上げさせる。

　弾かれた弾丸が地肌を這い、岩に跳ね返される音が耳障りに良く響く。風を切る音も聴こえない程に。

「敵弾幕を抜けます！」

　精霊力レーダーではすでに敵との相対距離は数メートル。両手に持つソードライフルを構え、接近戦

に備える。

「視界がゼロに等しい。バルキリ―隊との接触に注意しろ！！バルキリ―隊は距離を取り、援護射撃！」

「了解！！！」

　土煙の向こうにキラリと照り返す碧色の機影が覗いた。

「いつもの緑の奴では無いのか。どちらにしても司令官機に違いない！」

　レグス機はそのままスピードに乗って跳躍する。

「勝敗は機体の性能と精霊の特性と力だけで決まるのではないと言う事を思い知らせてみせる！」

　刀身を出したソードライフルを機体重量を載せて勢いはそのままに思い切り振り下ろす。

「何と言う速度！」

　碧のシルフィードに乗るイザリーはシルフの警告に逸早く反応し、右半面のバーニアを一斉に噴射さ

せレグス機の攻撃を辛うじて避けた。

　しかし衝撃で割れた地面に足を捉えられてしまう。

「甘い！」

　そこへ間髪入れずレグス機の右腕が振り抜かれる。

「あッ！」

　イザリーは慌てて両腕のバーニアを吹かし、その勢いを利用して上体を倒す。

「何ッ！」

　その上をソードライフルの刀身が薙いで行く。

「はあッ！」

　そしてブースターと脚部バーニアを使い、イザリー機は瞬時に起き上がりながら右回し蹴りを打ち込

む。

　レグスは辛うじてそれを左手のソードライフルで受け止めた。ライフル越しに強烈な衝撃が機体を衝

き抜け、操縦桿を握り締める両手が痺れるように震える。

「やってくれる！」

　レグスは両手のソードライフルを構え直す。

「格闘戦で私の乗るシルフィードに勝てるなど思わない事だ」

　イザリーも両肩より精霊力ブレードを取り出し、両手に構える。

　二機は睨み合い、じりじりと間合いを詰め始めた。

「うーむ、一気に攻めて来るとはの」

　ロングスナイパーライフルを的確に撃ちながら、ドランクは戦況を把握しようとレーダーを確認する。

どうやら一般機の性能はやはり共和国側に分があるようで、数に勝る帝国軍もじりじりと押され始めて

いた。

　サラマンダーが乱戦や接近戦には弱いと言うのもネックになっているのだろう。

「よし、ここはディアボロス特攻だの。行けいゼロライム！」

「え、ドランク機兵長・・・・本気ですか！？」

「勿論本気だの。その黒い機体ディアボロスの実力は敵軍も思い知らされておるからの。所謂、戦意喪

失狙いだの。そら行けやれ行けどんと行け！」

　ゼロライムは仕方なく覚悟を決めた。

「でも、行ってすぐ戻りますからね」

「解っとる解っとる。一撃お見舞いしたらすぐ戻ればいいからの」

「・・・・・解りました」

　ゆっくりとサタナキアに命じる。冷たいモノが頬を伝うのを感じながら。

「戦闘システム機動」

「・・・・リョウカイ・・・・」

　前部パネルにロックオンカーソルが出現し、敵機との距離と各武装の有効射程距離が瞬時に表示され

る。そして右上の稼動限界タイマーが動き始める。　

「行くぞ、ディアボロス！」

　黒い機体は翼状ブースターを広げ、叫ぶようにうなりを上げ爆発的な加速に身体が潰されそうになる。

速度計が焼き切れそうな程に一気に跳ね上がった。

「・・・・・・・・」

　あまりのスピードに声も出ない。

　一撃離脱と言う事はこの加速を繰り返す訳で。それは行きはシートに押し付けられ、帰りは前に吹き

飛ばされそうになる行為を繰り返す事で・・・・・。しかもいつ暴走してこっちに牙を剥くか解らない

と言う・・・・。

　ゼロライムは再びこの機体に乗ったのをつくづく後悔したかったが、そんな余裕は今の彼には勿論無

かった。

「あがががががが・・・・・」　　　

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