勝利は何処へ

一喜一憂遥か御前

「イザリー、どうしたんだのそれは」

　ドランクは後退して来たイザリー機が引き摺る機体を見て驚いた。それは散々苦労させられてきた、

あの蒼い震浪の愛機だったからだ。

「捕獲した・・・・損傷は酷いけれど」

　イザリーの機体からも激戦の程が窺い知れる。

「ともかくお主もここで援護射撃に徹するといいだろうの」

「ああ、そうする」

「なら、これを使うのだの」

　ドランクは手にしていたロングスナイパーライフルをイザリー機に渡す。

「ドランク・・・戦況は？」

「うーむ・・・・悪いと言うしか無いの。じりじりと押されておる感じで、やはり性能差かの・・・」

「そうか」

　イザリーも機体を岩に凭れさせながら、何とか狙いを付けて射撃する。

「隊長機がやられたのはもう伝わっておろうに、士気が落ちる気配も無い。よほど訓練も積んでいる兵

なのだろうの・・・・。何よりあの白い機体達が手強いの」

「こういう時はどうしたらいい、ドランク？」

「そうだの・・・・。やはりわしが行くしか無いの、後衛の指示は任せる」

「解った。気をつけて」

「うむ、このわしがどうにかなると思うてか。軽く粉砕してやるわい。ゼロライム、主もわしに付いて

来い。では行くぞ！」

　ドランク機は四脚の足裏に付けられたベルトローラーを景気良く回転させる。少々の段差やおうとつ

等ものともしない。

　体重のある分駆動音が大きいのが玉に瑕ではあったが、隠密行動意外では外見にそぐわない機動性を

発揮し、赤い機体が光を照り返し本当に燃えているようにも見える。

「あッ、待って下さいよ、ドランク機兵長」

　ゼロライムも黒い機体ディアボロスを慌てて疾走させる。

「あががががが」

　ディアボロスは黒い電光のように初速から高速を生み出し、瞬間移動と見間違う程の加速を発露する。

その分乗り手の身体に恐ろしい慣性が働くから、ゼロライムはその度に泣きそうになる。

「うーん、すでに四分の一は戦闘不能だの・・・・。無事に脱出出来ておれば良いのだがの・・」

　レーダーを見ながら心配に埋もれるドランクの横を黒い光が衝撃と共にビリビリと走り抜けていく。

「ん？・・・・・やはりまだまだ制御しきれておらんの・・・・」

「くッ、言う事を聞けって！！」

　ゼロライムは必至に減速と加速を繰り返す。その度に機体が前のめり後ろのめりになり、激しく身体

を前後に揺さぶられ、内蔵がシェイクされているような気分を味わった。

「ううううう・・きぼち悪い・・・・」

　別の意味でも泣きそうになる。

「まあ、初めからレイウスのようにはいかんわい。ブースターの出力も桁が違うからの。今は脚部バー

ニアだけ使うのが良かろうの」

「あ、はい・・・・ありがとうございます」

　ドランクのアドバイスもあって、ようやくディアボロスもまともに前進し始める。そこへ寄り添うよ

うにドランク機がより、左右を分担しあってモニターを眺める。所々に爆塵が巻き起こっているのが見

える。おそらくはサラマンダーの中距離砲の炸裂痕だろう。

「そろそろ、見えてくるはずだからの。気を引き締めて行くぞい」

「はい！」

　ゼロライムも戦闘システムの起動準備を精霊に命じた。

　ちりちりと後頭部辺りに冷汗の流れるのを感じる。　　　　　

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