燃える思い達

天命は誰が為に

　レグス少尉は焦っている。

「流石に隊長機は一味違うようだ。さて、どうするか・・・・」

　機体に与えられたダメージは駆動系にまで侵食し始めている。機体のレスポンスが衰えて行くのもは

っきりと解るまでになっている。コンマ数秒でも、蓄積していけば多大な影響を及ぼす事になるのは必

至。

　視力もまだ取り戻せていない。

「あちらにも相当なダメージを与えているはずだが・・・」

　対峙する碧の機体の腹部の装甲は剥がれ落ち、無数の弾痕がしっかりと刻まれている。神経系にあた

る回路が詰まった、人体で言えば背骨にあたるその部分を破壊出来れば勝利を掴む事になるだろう。

　しかし、それを貫くべき愛機の両腕にはもはやそれだけの強度も残っていない。衝撃が少しでも走れ

ばガラガラと崩れ落ちて行くに違いない。

「銃撃でも数秒・・・格闘戦なら一撃か・・・・」

　あの黒い奴が現れなければ・・・・。

　レグスはギリッと奥歯を噛み締めた。決定打に踏み出せない時間は途方も無く長く感じ、その分襲い

来る焦りたるや語るに及ばず。

「ならば一撃にかけてみるか・・・・」

　蒼いレグス機は右手に持つソードライフルを引き気味に構えた。

「深刻・・・・」

　碧の機体に乗るイザリー右将軍も迷いを抱えている。

　機体の状態から言えば有利に違い無いものの、先程の至近射撃で腹部に爆弾を抱えてしまった。その

部分の装甲も無きに等しく。一撃を喰らえば簡単に瓦解してしまうだろう。

　そして相手の蒼い機体の共感者にはその一撃を狙える技量が充分にある。最大速度も加速度もこちら

の機体シルフィードが上かも知れないが、初速にはそれほどの差は無いと感じる。

　故にこのままやり合えば九分九厘相打ち、そしてその一撃のダメージはこちらが遥かに大きい。

「引いて射撃戦に持ち込めば・・・・」

　操縦桿を後ろに引き、機体の脚がゆっくりと下がる。

「駄目だ」

　このまま距離を取ろうと後ろを向けばそれを狙い撃ちされ、向きを変えずにバーニアで下がろうとす

れば射程距離を抜けるのが間に合わない。

「仕方無い・・・」

　凍るような思いでイザリーは覚悟を決める。　気勢を発して蒼い機体が真っ直ぐに直進する。

　そしてそれに向けて碧の機体は無数の銃弾を浴びせ、盾にした蒼い機体の左腕が肘の辺りから上側に

千切れ飛ぶ。　　　

「くッ、しかしまだだ！」

　しかし蒼い機体の速度は緩む事無く、それを載せて残った右腕をソードライフルと共に真っ直ぐに腹

部へ向けて突き出す。

　その刀身は見事に碧の機体を貫通し、伝達系のコードを火花と共に引き千切る。そしてその振動に限

界を迎えた右腕も根元から破壊されもがれるように取れてしまった。

　碧の機体の下半身は力無く佇む。

「完全にやられた・・・でも！」

　イザリーは怯まず左腕で蒼い機体の頭部をしっかりと掴み、右手の銃器を押し付ける。

「はあああああああああ！」

　そしてありったけの弾丸をぶち込む。

「なッ！！！いかん！」

　レグスは何とか振り払おうと残った脚で何度も蹴ろうとする。しかし撃ち込まれている衝撃でバラン

スが崩れ、蹴っても蹴っても蚊程の衝撃も与えられない。

「結局は相討ちだったか！」

　レグスは急いで緊急脱出装置を機動させる。

　蒼い機体の背部が即座に開き、そこから小型戦闘機のようなものが飛び出した。

「愛機を失う事になるとは・・・・。この借りはいずれ必ず返す」

　レグスは唇を噛み締めながら基地へと撤退して行く。

　イザリーは抜け殻となった蒼い機体を何度も何度も弾が切れるまで撃ち続けた。

「はあはあはあ・・・・・」

「大丈夫？」

　横のパネルからシルフが心配そうに覗いている。

　イザリーはゆっくりと首を縦に振りながら。

「一時後衛に下がる」

　そう言うと蒼い機体を引き摺りながら、バーニアを吹かしてじりじりと後退して行く。

　勝利の高揚感でも無く、敗北感でも無いものをその心に刻みながら。　

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