銀髪姫

荒野の白銀

　健やかな銀色の髪が辺りを照らす。反射する陽光が和らぎ優しくなったようにも感じられる。

　北方地では高い山々が連なっている為に、一日の四分の一も日が見える事は無く。その為、色白で色

素の薄い髪が主流であるが、透き通る程の銀髪はめずらしい。

　突然変異なのか血筋なのかは解らないが、ある一族にのみごく稀に生まれるその髪を持つ者は、全て

に愛される者として大切にされる。

　それが支配階級ならば尚更である。

「マリエル様、またここにお出ででしたか。あまり外に長いするのはお寒うございます」

「あたしはここが好きなのよ。ここがあたしの居場所なの」

「またそんな事を仰って、困った方ですこと」

　侍従らしき年齢の近い若い女性が苦笑を返す。

「お風邪を召しても知りませんよ。それに操機兵のパイロットの方々もお待ちですよ」

「あら、そう言えばそうだったわね。でも、あの共和国があたしの所へ救援要請してくるなんてね。今

までは技術だけで小娘の手なんか借りるものかって感じだったのに」

　銀髪の女性は朗らかに笑う。そうすると跳ねるように揺れた髪が光を浮かび上がらせるように見える。

神々しい・・・そんな言葉がぴったりだと侍従は思った。

「何でも、レグス少尉の部隊が限界に来たみたいですよ。あの方だけに無理させ過ぎなのですよ、あの

国は」

「ふふ、レグス少尉しか頼れる人がいないって事なのでしょう。でも、あの方の助けになると思えば勝

手な言い分も受け入れざるを得ないわね」

「そうですわね。私も出来れば協力したいのですけど、まだまだ未熟ですしね」

「あら、貴方もあの方を狙ってたの？困ったわねえ、これでまた競争率アップよ」

「ふふふ、大変大変、ですね」

　勇敢なる女性達はそう言ってかろやかな笑い声を尾根に響かせた。

　降り積もる雪も溶けるように思える、暖かい雰囲気が広がる。

「それにしても、白い天使なんて・・・・・本当に使って良いものなのかしら・・・・。あたしはあれ

を見ると凄く怖くなるのだけれど」

「文献も朽ち果てていて、よく読めないですから・・・・。でも、帝国を相手にするにはあれが必要で

すし・・・。物量で押されたらやはり防ぎきれませんから・・」

「そうよね・・・。仕方無いわね、これも乗りかかった船よ。さあ、訓練訓練」

「はい、頑張りましょう」

　主従と言うよりは姉妹のようなその二人は、優しく談笑しながら細長い山を刳り貫いたような城の中

へと歩み入って行った。そして、太陽は静かに沈み始める。

　帝国軍人工闘技場では、今日も変わらず激しい音が乱舞していた。

　ある機は蹴り飛ばされ、ある機は殴り倒され、はたまたある機は投げ飛ばされる。レイウス教官だけ

でも辛い訓練が、今日からは何と言うことかドランクも一緒だった。

　新兵達はいつにも増して、泣きながら逃げ出したい気持ち満載でどうにも堪らなかった。

「はっはっは、甘いな若いの！」

「何度言わせる！もっと相手をよく見ろ！！」

　そしてドランクとレイウスの怒号がいつにも増して響き渡る。

「お主らはもう正規兵にされてしまったのだ、性根入れて頑張るのだの。でないと戦場の命は紙切れよ

りも儚いものだからの」

「ゼロ、お前の戦い方では機体が５分も持たない！回避と防御、これを心がけろ！」

　前の出撃から数日、敵側の動きは大人しいものだった。偵察機らしい部隊が散発的に現れる以外は、

特に目立った事も無く。体制を整える為に、言わば台風の目に入ったのだと上層部は判断した。その為、

少しの休暇や更なる特訓を全兵士に課したのである。

　整備兵達は言うに及ばず、機体の改修整備に追われている。

「よし、１０分休憩！」

　レイウスの号令に新兵機達は脱力したように座り込む。こうして見ると、機械と言うよりも巨人のよ

うに人間臭い。

「そう言えば、イザリーが右将軍に就いたようだの」

「ええ、らしいですね。まあ、順当な人選だと思います。元々ラグナートやウィル辺りが将軍位に居る

事がおかしいのですからね」

「そうだの。しかし、イザリーもつくづく苦労性だの・・・・・。また、三人で飲みにでも誘おうかい」

「そうですね。でも今は忙しい時ですからね、私達まで狩り出されるくらいですから・・・・」

「うーむ。ならわしらだけでもイザリーの足を引っ張らないように頑張るかの」

「はい、その為にもこの頼りない部下達を早く独り立ちさせないと・・」

　レイウスとドランクは複雑な思いで新兵機達を眺めていた。

　そしてレイウスはイザリーの顔を懐かしく思い浮かべた・・。

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