鋼鉄の女・・・かもしれない

アイアンメイデン

　その時、帝国軍少尉レグスは苦渋にまみれていた。

「思ったよりも損害は大きかったか・・・・」

　それに整備主任が整備兵達に指示を飛ばしながら応える。

「はい、そうですわいな。至る所に弾痕が犇めいてまして、どうにもお手上げですわい。多分、１、２

体は使い物にならないでしょうな。撃たれ所が悪かったのですわな、こう出力機関部分にガツンとやら

れたわけですわ」

「そうか・・・・、すまない・・。私の指揮が甘かった」

「いやいや、少尉さんの所為では無いですわいな。元々機体にも無理させ過ぎなんですわ。それが等々

限界に来ていたと言うだけの話、少尉さんもあまり無理されないようにしなはれ」

「そうしたいのだが、上がそれを許してくれんのだよ」

「うーん、でもまあくれぐれもお気をつけて下さいな」

「ありがとう」

　通路の左右には先の出撃から戻った機体がずらりと並んでいる。その中には勿論少尉の蒼く塗装され

た愛機の姿もある。

　どの機体も程度の差こそあれ、あらゆる所に破損、或いは大破の痕が見える。それだけ、相手がこれ

までとは違うと言う事を雄弁に物語ってもいたが。それ以上に連戦を強いた結果だとも言える。

　いくら訓練を積んでも人間は疲労から離れられないものであるし、機体も同じで使えば使うだけ疲労

していくのである。霊機内の精霊もしかりで、処理速度が衰え。その結果機体の反応速度が鈍る事にも

なる。

「だが、どんな無理無謀な命令でも我々はやるしか無いのだよ。白い天使もそうそう使えないだろうか

らな」

「あれこそ、無謀ですわいな。何でも一度の出撃で共感者が廃人のようになるそうですわ。今の人間に

乗りこなせと言う方が無理な話ですわな。あんなものがあるから変な野望の芽が光を浴びたりするんで

すわいな」

「今更言ってもしょうがあるまい。戦争が起きれば後はどちらが先にやられるかだよ」

「そうですな。つまらない事ですわ」

　そう言いながら整備主任はあちこちに檄を飛ばす。レグスはそれを見ながら、また出撃が近いだろう

事を予感させられた。

「まったく、ついてない人生だ」

　そのごく小さな呟き、いや囁きは誰の耳にも届く事は無かっただろう。　

　途方も無い地位を誇示するかのような豪奢な椅子から流れる言葉を、帝国第七機兵団長イザリーは静

かに受け止める。

「汝に右将軍の地位を与える。よりよく我が帝国に尽くせよ」

「ハッ、身に余る光栄に感謝致します」

　階級章と新しい軍服を受け取る時、イザリーは不思議な程の使命感に支配される。それは誰にと言う

ものでも、何に対してと言うものでも無く。彼女にとって考える事無く受け入れるものであった。

「ラグナートは我が帝国の礎となるべく、その命を持って果たした。その地位を受け継ぐと言う事を深

く受け止めるがよい。では、行けイザリー右将軍よ。汝の使命を果たすが良い」

　ゆったりと威厳のある言葉が粉雪のように辺りに降り注ぐ。静かでいて、その存在感は何ものにも勝

る。それが偉大なる帝王カルサス。帝国の長である。

「ハッ、この身命を持ちまして必ずや期待に応えてみせます」

　そう言いながら辞す時、イザリーは常に勝利を呼び込む。今までも、そしてきっとこれからも。誰も

疑わない、それがイザリー。

　その姿をアウグストゥスの選帝公も居並ぶ諸公と共に静かに見送った。

　或いは若りし頃の自分を重ねていたのかも知れない。精錬潔白、鋼鉄のように何ものも寄せ付け無い

光を持ち。冷静で揺ぎ無い。

　だが、故に少し寂しい・・・・。

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