それでも世界は変わらず回る

不意味なるかその苦心

「レイウス、ドランク隊帰還されたようです」

　オペレーターがコンソールに指を走らせながら知らせる。

「戦果はどうだ？」

「ハッ、敵部隊を撤退させたようですが。第一機兵団はすでに壊滅させられ、ラグナート右将軍も・・

・・・・」

「そうか。まあ、間に合わなかったのなら仕方が無い。しかし、もっと戦果を上げてくれると思ってい

たのだがな。流石のエース殿も所詮人の子か」

　オペレーターはそう言ったウィル左将軍の顔に、うっすらとした笑みが張り付いているように見えた。

そしてまた心底気分が悪くなった。

　ウィルはそんな事に気付く様子も無く、うろうろと意味無く反復していた。　

「取り合えず、整備兵達に彼らの期待を優先的に整備するように伝えろ」

「了解致しました」

　そしてオペレーターはつくづく自分は運が悪いと、人知れず嘆いたのであった。もっとも、それはこ

こに居るウィル以外の全員が思っている事なのは疑うべくも無い。

「ほっほーう、大した傷も無いようじゃな。レイウス機のこれは小僧共に使わせたショットガンのもの

じゃろうて」

　ギイじいさんはのんびりとした口調でてきぱきと動き、無駄なく修理を終えていく。もう手馴れたも

のらしかった。

「はっはっは、あのショットガンは弾を散らせ過ぎだの」

　悪びれた様子も無く、ドランクが笑う。

「今度からはもっと気をつけて下さいよ。味方にやられたなんて、笑い話にもなりませんよ」

　それにレイウスが苦笑を浮かべながら、一言入れる。

「それよりも、あいつらは何処に？」

「ああ、お前の教え子達ならまだ機体の中だの。ここに帰って来てから急に怖くなったらしくての。ま

あ、下手すれば第一機兵団のようになっていたかと思うと・・・平静ではおれまい」

「そうですね、でも仕方がありませんね。私達は兵士なのですから」

「そうだの。まあ、いずれ割り切るか何とかして自分で決着を付けるだろうの」

　レイウスとドランクは複雑な表情で部下達の機体を眺めた。

　良く見れば所々に銃弾の痕が残っていた。運が悪ければ一発の弾丸で機体が爆発炎上してしまう事も

ある。ドランク機が前に出て、盾になっていたと言っても、それでも気休め程度のものにしかならない

のが少し哀しかった。

「おう、若いの。出てこないと思ったら、また精霊に怒られていたのかい」

　その時ギイじいさんと一人の青年兵の話が聴こえて来た。

「ギイじいさん、前も言ったけど笑い事じゃないって。機嫌直すの大変なんだからね」

「ふおっふおっふお、彼女もお主を心配しておるのじゃよ。それだけ大事にしてくれているのだから、

もっと嬉しそうな顔せんか」

「俺はへそを曲げてくれない方が嬉しいよ」

　そうしてがっくりと肩を落とす青年兵。その拍子にコクピットから滑り落ちそうになり、必死にハッ

チを掴んで手足をバタバタさせている。そして慌てて助けに向かうギイじいさん。しかし、はりきり過

ぎてまた持病が出たらしく、腰をさすりながら、まあもうちょっと待てい頑張れ若いの、と言っている。

　それを聴きながら必死で掴まっている青年兵の様子が悪いと思いながらもひどく可笑しい。

「レイウス、面白いのが一人居るの」

「ええ、ゼロライムですよ。我が教え子ながら変な奴です」

「はっはっは、ならやはりわしらみたいになる可能性も大だの」

「そうならないようにするのが教官の役目なのですけどね」

　レイウスとドランクはそれを見てやはり大笑いしてしまった。おそらくゼロライムからは恨みをかっ

ただろう。

「でも、あいつの魔力はおそらくイザリーにも匹敵しますよ。鍛えれば、類を見ない程になるかも知れ

ません」

「ほう、お主がそこまで言うとは楽しみな奴だの。イザリーは今も前線だろうの」

「ええ、真面目な子ですからね・・・」

　そしてゼロライムの必死の声だけが心地よく場に広がったのであった。

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