そこに在れば在る心

青天は遥かへと

　深く垂れ込めた雲が陰鬱と照らしている様は、あまり気持ちのいいものでは無かった。それと同じで

陰鬱な暗い感情のこもった表情を見るのも、気持ちのいいものでは無い。

「ではそういう事でお願いする」

　彼女は元来無表情な上に感情を読み取り難い話し方をするので、それは誰にも知られる事は無いだろ

う。でも、確実に彼女は嫌悪感を負っているのである。

「・・・・解散」

　彼女の声に合わせて元右将軍ラグナート恩顧の士官達は指示された所へと赴いて行く。いずれの面々

も、不満、嘲りと言った負の感情を隠そうともしない。彼らにとって、貴族階級の出身でも無く、まし

てや女が上官で、しかも言うに事欠いて将軍等とは決して許せない事だった。

　彼女は早々とうんざりしていたが、そんな事は自らに課せられた使命とは関係無い。帝国の為、しい

てはそこに居る彼女の大切な人々の為に出来る事を最大限にすべきだと彼女は深く思っている。

　ただ、前途は多難のようで。それがやはり辛くもあった。

「・・・・・・ふう・・・・」

　彼女は元気を出そうとするように、懐かしい顔を思い浮かべていた。

　そしてつくづく自分は苦労性だと、改めて感じ入ったのだった。

　その頃共和国最高司令室では。

「レクレリー元帥、やはりそろそろレグス隊も限界のようですな。しかも、先の出撃で数機が大破して

しまったとか」

「ギリアム大将、一体何が言いたいのかね」

「いやいや、流石は元帥閣下の直属部隊だと思いましてね」

　ギリアムは皮肉そうに口元を軽く歪めている。その感情を隠そうともしないのがレクレリーがこの男

を好きになれない理由だった。他の上級将校達もほとんどが不愉快そうな表情を浮かべている。

　何故この男が大将でいられるのか、それが皆の知りたい所でもあったが。親しい者がいないので、誰

にも解らないのだった。

「まあまあ、お二方共。今は北方の件をどう活かすかですよ」

　その場を和ませるようにヒュ―ラー中将が穏やかに口を開く。

「そうですな。幸いにもあちらも快く部隊を派遣してくれるそうですし、それをどうするかが今の我が

国にとって大事ですな。帝国もいよいよ本腰を入れて来たようですし」

　クリストル少将がそれに続く。この男はいちいちギリアムの相手をするのに疲れた様子にも見える。

その冷ややかな眼差しが場を鋭く射抜く。

「しかし、精霊と魔力を使用しない機兵等が役に立つものでしょうか」

「少将、あの機兵の能力は汎用型ウンディーネにもひけを取らないと見ましたよ」

　ヒュ―ラーがその疑問に答える。相変わらず穏やかな顔だ。

「ええ、パイロットも優秀ですよ。ともかくそのような雑務は私にお任せを」

「うむ、ルース准将頼むぞ」

「はい、元帥閣下。このルースにお任せあれ」

　他の将もそれに依存は無い様子。面倒事は下位に任せと言う事なのかも知れないが。

　ただギリアムだけが、薄く例の皮肉な笑みを浮かべていた。　

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