そして更に動き始める

立ち向かう進撃

「レグス少尉、とうとう上層部は北方へ救援要請をしたようですよ」

　女性士官がにこにこと話し掛けてくる。レグスはそれに心地よい安堵感を感じるのだ。

「そうか・・・。しかし遅すぎる感は否めないな・・。この国も威張れるほど余裕がある訳でも無いだ

ろうに。それで来るのかな・・・、彼女達が」

「ええ、そのようですよ。例の操機兵部隊を派遣してくれるそうですから」

　レグスはその言葉に、我知らず苦笑を浮かべる。

「私は彼女達は苦手なんだがな・・・・」

「ふふ、頑張って下さいね少尉」

「ああ、何にしても我々の軍事力と国力では、帝国には歯が立たないからな。白い天使も出来ればもう

使いたく無いからな」

「そうですね、あんなものには頼りたくは無いですよ」

「そうだな・・・・」

　レグスは胃を圧迫されるような、重苦しい気分になる。今では乗り手を食い潰すモノでしかない、魔

動機兵などに頼っている上層部の気が知れない。

　確かに恐ろしい程の戦果を上げている。今までにたった二度出撃しただけで、それまでは大海と水た

まり程の差があったあの帝国と、無理はしているにせよ互角に渡り合っているのだから。

　しかしそれでも、あんなモノが無ければ・・・・と。多分、共和国のほとんどの人間が思っているだ

ろう。別に帝国に勝ちたい等と誰が思っていた事だろうか。

「少尉・・・？」

「ん、ああ。別に何でも無い」

「お疲れなのですね・・・」

「確かに疲れてはいる。しかし、それは私だけでは無いだろう。さて、北方の戦乙女様方と渡り合う為

に仮眠でもとるかな」

「まあ、少尉ったら」

　二人で笑いながら、レグスも何故こんな戦争をしているのだろうと言う疑問が頭から離れなかった。

そんな事を考えても意味の無い事だとははっきりと解ってはいたけれど。

　帝国の二人の技師長は満足の笑みを洩らしていた。

「ガウェンよ、どうやら上手くいったようだぞ。流石は我ら」

「フォーウェンよ、元々我らに不可能な事など無いのだ。これは当然の結果と言うものだ」

「うむ、そうだな」

　その二人の回りには疲労し尽くした技師達が骸のように転がっている。しかしその二人はそんなもの

には興味はまったく無いらしく、自分達が仕上げた黒い機体の方ばかりに見入っていた。

　その黒い機体はほとんど一から設置し直す事になった霊機関のせいで一回り大きくなっていて、更に

その威圧感を増したように感じる。背中に大きく生やした大きな翼状のブースターも完全に修繕されて、

正しく黒い悪魔と言った様相だった。

　時折聴こえる唸り声のような音がその場に鈍く響く。

「しかし不気味であるな、フォーウェンよ。あれに載せた精霊も中々に不気味であるしな」

「そうだな、ガウェンよ。元々暗黒精霊は不明な点が多いからな。まあ、それは我らには関係あるまい。

それは乗り手が気にする事だ」

「うむ、まったくだ。後で何が起ころうとも、我々の関与する所では無いからな」

「その通りだ、ガウェンよ」

　そうして、二人の技師長達はおおいに笑った。他には転がった技師しかいないので、その声は辺りに

良く響く。

「さて、仕事も終わった事だ。我らは休むとしよう、ガウェンよ」

「そうだな、フォーウェンよ。後始末はこの転がっている者達に任せるとしよう」

「その通りだ。雑務は部下にやらせておけば良いのだ」

　そう言いながら二人はゆっくりとそこから去った。

　黒い悪魔は自分の新しい姿を眺めながら、ゆっくりとそれを採り込む事にした。それすらも嬉しくて

たまらなかった。後は・・・・・

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