予想外の計算内

平原の旋律

　レイウスとドランクは緑と赤の機体を並べて、一緒に数百メートル前方の機体達を睨んでいた。

　基地の前に部隊を布陣させ、出方を窺っているが。敵側の機体も動く気配が無く、あちらもこちらの

動きを待っているようだった。

　蒼い機体率いる部隊と白い部隊が同じように布陣している。

　海辺の平原に建設された基地の為、海から吹く風の音が煩くも感じられた。

「鏡合わせみたいだの」

「ええ、どうやらあそこまで来て欲しいようですね。一体何を考えているのやら」

「うーむ。まあ、どう考えても機体数が少ない分打って出るのはリスクが大きいの」

「そうですね。しかし、このまま居てもしょうが無いですしね」

　おざなりに射撃を繰り返してはいるが。相手も巧妙な位置に陣している為、ここからではまともに狙

いも定まらず。せいぜい土煙を上げる程の効果でしか無かった。

「うーむ、やはり狙いは我らだの。どうするかの・・・・」

「待ちましょう。あちらの物資は少ないはずです。長い時間をかけられないですから、そろそろ出てく

ると思います。下手に出ては囲まれて、それで終わりでしょう。隊員達には援護射撃くらいしか期待出

来ませんしね」

「そうだの。ならば狙いだけはつけておくかの」

　ドランクは砲身を微妙に動かしながら。隊員達には何があってもここを動かずに撃ちまくれ。そして

やばそうになったら、わしらの事は放ってさっさと逃げろ。と伝えた。

　そして反論がある前に、そういう状況になったら足手まといになる、と間髪入れず言い放った。

　隊員達はそう言われるとそれ以上に何も言えるはずも無く。黙って従ったようだった。

「厳しいですね、ドランク」

「何のレイウス、お主程ではない。まあ、大人しく従うかは知らんがの。何しろお主の生徒だしの」

「そうですね、そこは私も反論の余地は無いです」

　そう言って二人で一頻り笑った。

「しかし、そろそろ動きがありそうな気配だがの。あちらの機影を捉えてから結構な時間が経つからの」

「ええ、気を引き締めておきましょう」

　ドランクとレイウスはレーダーとモニターに神経を集中させる。　

　レイウスは操気兵がいるとレーダーに頼れない分疲れが増すなと、苦笑が浮かぶのを感じながら思っ

ていた。その時

「海岸より敵影感知致しました！」

　突如基地内より通信が入る。同時に精霊力レーダーにも敵機を現す赤い点滅が無数に点灯する。そし

てそれに呼応するように、前方に陣していた二部隊に動きが見えた。

「レイウス！」

「まさかあちらに援軍など・・・・。予想外でしたね」

「むうう、そう言えばウンディーネは元々は水中戦用の機体だったの」

「ええ、すっかり蒼い奴に気を取られていて忘れてましたけどね」

　左の海岸から現れた敵機が徐々に近付いてくるのが見える。おそらく後１分もすれば上陸するだろう。

　前方の部隊とはすでに射撃戦が始まっている。白い部隊が恐ろしい速度で向かってくる。その距離す

でに百メートルを切っている。蒼い震浪率いる部隊は今回は援護に回る様子で、左右に回避運動を取り

ながら銃弾を撃ち出してくる。

「むう、流石操機兵だの。運動性はシルフィードにも劣らん。このまま行くと丁度海岸線から来た奴ら

の良い的になる頃にぶつかってしまうの」

「ええ、不味いですねこれは。基地内の部隊も出撃可能までざっと後１０分くらいですか。間に合いま

せんね」

「うーむ、だからわしらが到着するまで勝手に動くなとわざわざ打電したのにの」

「だからその時にはすでに出撃させていた後だったではありませんか。まあ、整備すれば使える機体も

多かったですから、何とかなると思ったのですけどね」

「まあ、しょうが無いの。ともかく１０分頑張ろうかの」

「限りなく厳しいですけどね」

　そう言い合いながらも、銃弾を撃ちまくる。広範囲に散らばるショットガンのおかげも手伝って、隊

員達の戦力もそこそこ期待は出来るものの。白い部隊は手にした槍のようなものでほとんど弾き返して

いる。

「やはり、威力が足らないかの」

　そう言うドランク機の主砲もまったく当たらない。

「ですね。しかしまともに狙っても当たりませんね」

　レイウス機のマシンガンも当たりはするものの、決定的なダメージとまではいかない様子だった。

「装甲もなかなか厚いようだしの。困ったもんじゃい。若造共、ほれほれしっかり撃たんかい！」

　隊員達にも限界の色が見え始めている。ドランクの叱咤激動も半分以上聴こえていないようだ。

「不味いのレイウス」

「ええ、久しぶりに脳内に警告が発せられていますよ」

　肉眼でもモニターごしにはっきりと見えるようになった白い機体達が、北方で言われる魂の運び手に

見える。

　その先頭に居る一回り大きい銀色の機体の長大な槍が閃いている様は、さながら死神のようだった。　　

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