策に策を労して

途切れる事無き奔流

　貴き者などどこにいようか。先祖の威光に諂う者が、貴族な訳があるか。それならば、実力だけで将

軍位についた自分の方が何倍も相応しいではないか。

　ウィル左将軍は相変わらず神経質そうに、絶えずこまめに歩き回りながらそんな事を考えていた。

　部下達は慣れているらしく、そんな上司をある意味無視しながら自分達の仕事に没頭している。軍の

統制を取る為に絶えず伝令を飛ばさなくてはならない。そして、この困った上司も確かに有能ではあっ

た。

「ウィル左将軍、敵影です！前線基地より入電致しました」

　その声にぶつぶつ愚痴るのを止めて、状況説明を促す。

「ハッ、蒼い震浪率いる部隊と未確認の白い部隊が確認されたようです。待ち構えるように、現在基地

より数百メートル先に陣取っている様子です。偵察機を出しましたが、向こうから仕掛けてくる様子は

ありません」

「白い機影だと・・・・。まさか・・・・」

「いえ、あの巨大な機影では無いとの事です。敵国の新型でしょうか？」

「いや、共和国には何機も同時に開発する資源も人材の数も無いはずだ。おそらくは他国の援軍だろう。

直ちにレイウス・ドランク隊を向かわせろ。一応右将軍にも伝えておけ」

「了解致しました」

　ウィルは再びうろうろと歩き回り出す。その姿は鬱陶しい事この上無い。

「しかしどういう事だ。攻めに転じて来たかと思えば・・・・。なるほど・・・、レイウス・ドランク

隊さえ先に制しておけば後は問題無いと判断されたのか、我が帝国も舐められたものだ」

　室内全体がヒートアップしたかのように、伝令の数とスピードが増す。最前線の戦場にも劣らないの

かも知れない。

「フン、いずれたかだか数部隊で勝敗がつく程、戦争は甘くないものだと思い知らせてやる。不意打ち

さえされなければ、対抗する手段は星の数ほどあるわ」

　ウィルの皮肉で不気味な笑い声も、今は激務にかき消されるのみであった。

「アウグストゥスの選帝公様。例の機体の改修が終わりましたようでございます」

「うむ、流石はガウェンとフォーウェンよな」

「ハッ」

　レズナー参謀長は畏まりながら、静かに見ている。

　公の偉大さは老いにも惑わされる事無く、確かにそこに存在する。昔程の冴えは無いにせよ、枯れる

事無く年月が大木へと変えるように、それは大きく重くそして静かに染み渡るモノへ変える。

「それから、いよいよ共和国が本腰を入れて攻めに回るようです。あの蒼い部隊と、おそらく北方ので

しょう、白い部隊が前線へ現れたようです。今の所攻めかけてくる様子は見られないようですが」

「そうか・・・、禁忌の力を呼び起こしただけで無く。北方の始祖機も動かして来たか・・・・。しか

し北方の技術者共め・・・技術提供のみならず・・・、面倒な事よ」

「ハッ。左将軍殿はこれにレイウス・ドランク隊を向かわせたようです」

「うむ・・・、相変わらず教科書通りよな。レズナーよ、海岸線に数部隊伏兵させておくのだ」

「海岸線に・・・ですか」

「そうだ。兵装はなるべく貫通力があり、命中精度の高い物を持たせるように」

「ハッ」

　レズナーには公の意図は解りかねたが、すぐさま過不足無き命令を伝令に発した。そして更に自らの

判断で、子飼いの偵察機達を出撃させるように命じた。

　期待以上の仕事をし、更に何十にも防衛線を張るのが自分の仕事であり。参謀とは何も自ら策を練る

事だけでなく、与えられた策を補完する事でもあると考える。

　偉大なる方の策ともなれば、それは尚更である。自分が全てを知る必要はない。

「うむ、頼むぞレズナー・・・・」

「ハッ。共感者の件も死力を尽くします故、今しばらくお待ち下さい」

　レズナーは跪きながら、少し焦ってもいた。

　見付からないのである。幾人かに早速乗せてみても、魔力を搾り取られるだけで機動する事すら出来

ない。それをこの方はすでに見透かしておられるのだろうかと・・・。　　

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