そして話は進む

機体の新鋭

「ほう、これが噂の新型かの」

「うむ、お主達が持ち帰って来た青い震浪の機体から得た技術を応用して造ったものじゃい。北方の技

術力は大したもんじゃ」

「ふむ」

　ドランクはギイじいさんが自慢気に眺める並び立つ機体を、一緒に順に眺め始めた。

　まず碧の機体強襲戦用エアリエル、赤の砲撃戦用イフリートΛ、緑の高速戦闘用エアリエルΛ、そし

て黒のディアボロスΛ。

「これで、性能的にも負けはせんはずじゃ。敵がどんなバケモノを造ろうと決して引けは取らん出来じ

ゃ。まあ、それも賢視殿のおかげもあるのじゃがな」

「確かにの」

　この四機は特別にカスタマイズされた専用機であるが、他の機体の精霊も霊機も全てバージョンアッ

プされている。

　風精霊第三種シルフは第二種エアリエルへ、炎精霊第三種サラマンダーはイフリートへ。そして、暗

黒精霊第一種サタナキアは・・・・・。

「しかし驚いたの、一種精霊を越える最上位精霊が居たとはの・・・・」

「あの賢視殿には驚かされる限りじゃい」

　南方から来た黒ローブを纏う賢視はフェイアと名乗った。

　全身黒ずくめで声からも姿からも性別が判明出来ない、そんな人だった。いや、人であるかも疑わしい。

太古の伝承に見る、神魔とか言われる者かも知れないと思う程に一種不可侵の雰囲気をも纏っていたの

である。

　一緒に帰還したレズナー参謀長は衰弱と疲労に為にすぐさま入院したのに対し、まったく声に乱れも

無いのが不気味ですらあった。

「あの黒い機体を今の人間が操るのは不可能です」

　賢視が言うには人間の魔力が最盛期の時に、つまりは最後の神も消え、魔力が衰退する前に創られた

魔動機兵は最も強力でそれに比例して消費魔力も凄まじい。その中でもあの機体は特別なもので、その

時代からすでに人の手におえるモノでは無かった。　

「ですが現にあの機体の片割れである白い天使は稼動している。それは光精霊第一種オリジンの力に寄

るものだからです。なら何故、黒い悪魔と呼ばれるこちらの機体は稼動しきれないのか。それは暗黒精

霊第一種サタナキアが真の力を解放してないからなのです」

　それから暴走と呼んでいるあの状態が本来の機体スペックであると、賢視は告げた。そしてその次に

発した言葉は実に驚くべきものだったのである。

「ですから私が精霊達を一時的にバージョンアップする事にします。この帝国で現在使われている三体

の精霊をです。皆さんはその力であの白天使を破壊して下さい。それが力をお貸しする条件です。そし

てそれが終わった時に黒悪魔を再び封印します、永久に」

　皇帝はこれを受け、過ぎた力を再び眠らせる事を深く誓った。

　賢視の力でレイウスも目覚める事が出来、帝国は新型機の開発と訓練に力を注いだ。

　そして前回の白天使との遭遇戦より一月、共和国北方連合との最終決戦を迎える事となった。

　ただ流石の賢視も、一種精霊サタナキアの覚醒には手間取っている様子であったが。

「しかしΛとは何の事じゃろうか」

「うーむ、良く解らんがの。昔の記号ではなかろうか、ディアボロスには元々その刻印があったようだ

からの」

　ギイじいさんとドランクだけで無く、誰にも頭には幾つもの疑問がある。だが、賢視は何も答えない。

賢視は干渉せず、ただ見据えるのみの伝承通り。

　ただ、レズナー参謀長の話によれば。白天使の事を伝えた途端、急に掌を返したように協力的になっ

たのだと言う。

「しかし乗り手にゼロライムをと言うのも不思議じゃの。まあ、レイウスも乗りたがらなかったのじゃ

が」　　

「ふうむ、相性がどうのとか言っておったがの。まあ、暴走時のディアボロスから生還したのだから、

適任と言えば適任だろうぞい。わしも驚いたからの」

　イザリーと別れた後、決戦場でドランクが見たものは。霊機類を全て失いながらも、無傷に佇むデ

ィアボロスだけだった。幸いにもゼロライムも良く解らない事を口走っていたものの、無事だった。

　ただ、白天使の姿は何処にも見えず。精霊達も何が起こったか解らないとの事。

「まあ、わしはただ整備するのみじゃい」

「おう、わしも考えるのは人に任すぞい」

　黒い悪魔も眠ったように今は静かに佇んでいる。

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