表裏別体

静かな脈動

　細かな振動音が辺りを支配している。

　寝息のように規則正しいモノではなく、心臓の鼓動のように気の向くままに一貫性が無い。それが滲

むようにゆっくりと聴こえてくる。心臓の鼓動は最も人間を安心する音楽だとも言われるが、今は如何

せん不気味でしかない。

　それでも皆歓喜している。

「ガウェンよ、この出来ならアウグストゥスの選帝公閣下もお喜びになられるだろう」

「フォーウェン、確かにこれならば予想通りの性能を引き出す事が可能だ。やはり我々に不可能は無い

のだ」

　二人の技師長は自分達の成果にいたくご満悦だった。他の技師達もほっと胸を撫で下ろしながら、表

情をほころばせている。この二人の技師長の機嫌が悪いとろくな事にならないからである。

「しかし、フォーウェンよ。これで霊機の方は良いとして、機体の方も全面改装せねばなるまい」

「うむ、ここまで高い技術が使われている機体は私も初めて見る。幸いな事に回路は生きているが、こ

のまま使えばいくら魔力の高い人間でも数分と持つまい。サポートユニットを使用してもだ」

「ならばやはり魔動機関を霊機関で代用せねばならない。これはしばらくは休み無しであるな」

「その通りだ、ガウェンよ」

　そして二人の技師長は技師達の方を振り向き。

「何をグズグズしている！さっさと働かんか！！」

　結局そうなるのかと技師達は深々と溜息を付く暇も許されず、心の中で盛大に愚痴を叫びながら持ち

場へ戻ったのだった。

　しかしてその胎動に気付く者はいなかった。

　黒い悪魔は満足そうに見詰めている。

　ラグナート右将軍は苛立ちを隠せなかった。

「フン、あの青二才めが。相も変わらずのたぬきぶりよな。成り上がりが我と並ぶ左将軍とは世も末よ」

　眼前に広がる霊機兵の群れを眺めながらも、その呟きは苦々しかった。

「ラグナート様、出の卑しいウィルめなどには精一杯の処世術でありますよ。何をしようと放っておけ

ば良いのです。所詮高貴な貴方様にはどうあがいても何処をとっても勝る事などありえない故」

「ギブラー、確かにそなたの言う通りよな。我が気にする事すらあやつを増長させる事であろう」

「そうでございます。せいぜい憐れんで寛大な心持ちでいてやりましょうぞ」

「ハッハッハッ、そうであるな」

　ギブラー第一機兵団長は七光りの能無しボンボン野郎めと心中で苦々しく思いながらも、揉み手さな

がらで相槌を打っておいた。せいぜい今の内に威張っておくがいい、その内自分がコキ使ってやると改

めて誓いつつ。

「ではラグナート様、本日は何卒ご教授お願い致します」

「うむ、では参ろうか。光栄に思えよ、ギブラー。我が一訓練に付き合う事など平素無い事であるぞ」

「解っております。私などの兵団の為に貴重なお時間を割いていただき、光栄至極に存じます」

「うむ」

　兵団に指示を飛ばしながらも、ギブラーは胸中を常に過ぎる不快感に身の毛もよだつ思いだった。

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