その名は蒼い震浪

浪々たる振動

「リフェイン団長、精霊レーダーに反応あり！」

「団長、如何致しましょう！」

「フン、あちらから打って出てくるとはな。サラマンダー隊は即座に隊列を組み一斉射撃、シルフィー

ド隊はその後強襲し一斉攻撃！！」

　リフェイン第二機兵団長は全隊が浮き足立つ前に檄を飛ばす。

　演習に訪れた荒野での突然の敵襲、予定外ではあったが予想外とまではいかなかった。数で劣る敵国

軍は一機兵団のみになる演習時を見計らい、度々散発的に仕掛けてきていたからだ。予測された奇襲ほ

ど愚かな事は無いと、リフェインは敵司令官に嘲りの感情を向けた。

　綺麗に隊列された、帝国中距離支援用霊機サラマンダーの長い砲身が一斉に火を噴く。遠大な怒号と

共に数多の鉄鋼弾が敵霊機に突き刺さる。腕や足を剥ぎ取り、装甲を粉砕する様が目に浮かぶようだ。

「全弾命中！！」

　それを裏付けるかのようにオペレーターが報告する。

「フン、奴らも愚かな真似を。ゲリラ戦を展開するのであれば、森や山中を狙うもの。身を隠す場所も

無い荒野ではサラマンダーの餌食よ。よし、シルフィード全隊、突出せよ！！」

「シルフィード全隊突出せよ」

　オペレーター役の機体が次々に受信し、命令を全部隊に伝える。

　シルフィード隊がスリムな体型に相応しい俊足で、一瞬にして距離を詰める。機体が陽光を乱反射し

て、さながら光の奔流のようであった。瞬く光は勝利を確信し、絶対的な自信と共に強く前進させる。

　リフェイン団長もまた一つ戦果を上げた事に満足を覚えた。

「団長！ここにあるのは霊機の残骸のみであります！！」

　その光に翳を落とし始めたのは、シルフィード隊よりのこの一報からであった。

「何ッ！？それはどういう・・・・・何だッ？？」

　司令官機のすぐ側で突如爆風が巻き起こる。震える振動が鼓動と合わさり、不規則な不安感がじっと

りと胸に浸透する。　

「誰か現状を説明しろ！！」

　リフェイン団長は焦りつつある心を押し付けるかのように、盛大に怒鳴る。

「とッ、突如レーダーに霊機反応が出現致しました。我が隊の丁度真後ろです！！」

「なッ、馬鹿な！！そんなはずは・・・・。くッ、サラマンダー隊に狙わせろ！！シルフィード隊を即

座に呼び戻せ！！」

　サラマンダー隊が反転し、一斉に砲撃準備をする。

「間に合いません！すでにもうそこ・・・・・」

「どうした！報告は！？」

「駄目です、最後尾から順にオペレーター機も次々に破壊されて行っています！すでにサラマンダー隊

の６０％は戦闘不能であります！」

　リフェイン団長は自らの機体を後尾に向ける。

　すでに機体の画面にも映っている。おそらくもう肉眼でも確認出来る距離だろう。

「何だ？あの蒼い機体は！」

　津波の如き振動と共に襲い来る敵機の先頭には、蒼一色にカラーリングされた機体が。どの色よりも

一層映えて見え、それが何とも不気味だった。

「識別不能です！他の機体と形状は似てますが」

「しかし何と言う速さだ・・・・、まるで当たらん・・」

　蒼い機体は雨のように降り注ぐ銃弾のベールを難なく避けている。と言うよりも、その機体の通り過

ぎた後を銃弾が追っていると言った方が正しいかも知れない。速すぎて霊機の処理速度がまるで追いつ

かない為、ロックオンする事すら満足に出来なかった。

「駄目だ！全隊帰還せよ！」

「駄目です、すでにもうそこまで！」

　リフェイン団長がメイン画面に目を戻すと。

「なっ・・・・・」

　その日、帝国第二機兵団は戦闘開始の合図から僅か半時で壊滅した。

　それから全軍に蒼い機体に対する警告が伝えられる事となった。これよりその蒼い機体は蒼い震浪と

呼ばれ、長らく全軍より畏れられる事となる。　　　

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