戦意霧散

天使の眠る日

　白い光片が堕ちて行くのが視界の端に見える。

　天上で轟音も閃光も衝撃も生み出されなくなった。おそらくもう終わったのだろう。随分早かったよ

うにも思えるが、人知を超えた力の衝突と言うのはそんなものかも知れない。ほんの少しでも劣ってい

た方が一瞬で敗れる。膨大なエネルギーであれば、二度目は無いだろうし。

「しかし、しんどいの」

「ええ、まったくです」

　ドランクとレイウスはそんな感慨に浸っている暇も無かった。

「はああああッ！」

　敵始祖機はやはりその性能が群を抜いていた。前戦よりも遥かに強化されているイフリートΛとエア

リエルΛですら追い付けない運動性。

　軽やかに舞うようなその動きは脅威としか言いようのないモノだった。

　レイウスがエアリエルΛで仕掛けて尚、ドランクのイフリートΛの砲撃は直撃どころか掠るのが手一

杯と言った様相で、流石の二人のエースも疲労を感じていた。

「流石ね・・・・」

　一方、始祖機シルバー・ヴァルキリーを駆るマリエルも精神的にかなりの疲労を負っていた。砲撃も

ブレードの一撃一撃も上手く連携がとれていて、反撃どころか避ける事に集中していなければ一気に葬

られてしまうだろう。一瞬足りとも気が抜けない。

「一機だけならまだ何とかなるのだけれど・・・・」

　救援を呼ぼうにも、他の機体にもそんな余裕がある訳も無く。何より、

「指揮官たる私が弱み何か見せられない！」

　気力を振り絞って必至にかわす。

　右からのブレードを避けると、そこへ砲撃。そしてそれをバーニアで軌道を変えてかわすと、そこへ

また狙い澄ましたような斬撃が。

　そんな状況がずっと続いている。お互いに決定打が見出せないままに疲労感だけが募っていく。

　丁度その時だった。

「白天使撃墜せり！！」

　と言う通信が一斉に受信されたのは。

「やっぱり・・・・・」

　そしてマリエルは全軍に向けて。

「連合軍は一切の戦闘行為を停止、降伏します！！」

　それを受けて、ドランク・レイウスの二人はぴたりと動きを止める。

「む・・・・決断の早い女だの。ちょっと吃驚だぞい」

「ま、これで長い争いも終わりですね。私は疲れました」

「まったくだの」

　即座にイザリーからも帝国全機へ戦闘停止命令が発せられた事は言うまでも無い。

　それを追うようにゼロライムから白天使の回収報告が送信された。

　ここに人々の予想を上回る激戦となってしまった、帝国対連合戦は終戦を迎える事となった。

　帝国は実に全機兵のおよそ半数を失い、共和国・北方はほぼ国としての機能を失った。

　全ての人間にとって終戦からが本当の戦いなのかも知れない・・・・。

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