満足する神々

憑物堕とし

　機体から急速に輝きが薄れていく。全力を込めて放った一撃は事も在ろうに・・・・。

「喰われてしまうとは・・・」

　吹き荒れる閃光が過ぎ去った後、己の姿を見れば。片腕を食い千切られた憐れな白天使、いや堕ちた

天使か・・。眩いほどの光も消え、小パネルに映るオリジンも儚そうに薄れていく。

　それと同時に肥大して研ぎ澄まされていた感覚が、自分のモノへと還って行く。今までの事が夢か幻

のように。残された腕をあげようともがいても、操縦桿もまったく動きもせず。ただ力を亡くして行く

のだけがはっきりと解る。

「こんなにもあっけなく滅ぼされるとは・・・・」

「・・・仕方が無いのです・・・。これがこの機体と私達が神から受け継ぎ、与えられた役割」

「オリジン・・・・」

「白い天使を止めるのが黒い悪魔の役割。私もルシファーには勝てません」

「なるほど、相性の問題か・・・」

「はい・・・では、お元気で・・」

　儚く消える前にオリジンが一瞬だけ微笑んだ気がした。

「おやすみ、オリジン・・・」

　オリジンが消えるのと同時に残り香のように残されていた力も後を追うように消失した。

　それを見た黒悪魔も興味を失ったかのように噛み千切った白天使の片腕を吐き捨て、巨人のように変

貌した身体中からどす黒い煙を出して元の姿へとみるみる還って行く。そして最後に黒煙を丸呑みにし

て満足そうに静まった。　

　白天使は壊れた人形のようにゆるやかに地面に落下し、そのまま完全に沈黙したようだった。

「ん・・・・終わった・・・のか？」

　黒悪魔ディアボロスに乗るゼロライムも、肥大していた精神が黒煙を出す度に縮こまって元の身体へ

収まっていくのを感じていた。

　今はもう先程までの一体感も消え、小パネルのルシファーもいつのまにか眠るように黒塊へと還って

いた。勿論あの飢餓感も暴れたい衝動もごっそりと消え失せていた。

「大丈夫・・・ですか？」

　もう一つの小パネルからエアリエルがおそるおそる顔を出す。

「うん、何とか今回は無事だったよ。賢視さんのおかげだね。それと君の」

「え？」

「助けてくれていたんだろう？それで大分俺への負担が減っていた気がする」

「そうですか、それは良かった」

　エアリエルは本当に嬉しそうに微笑む。

「・・・・・・・・・」　

「どうかしましたか？」

「いや、珍しくしおらしい・・・・・うッ」

　一転して物凄い形相で睨まれた。口は災いの元、精霊でも女は怖い・・・・。

「ディアボロスはまだ動くよな？」

「ええ、まだ今日一日は私達の力も増したままですから」

　気を取り直して聞くゼロライムに仏頂面で答えるエアリエル。

　でもその方がゼロライムは嬉しそうだった。

「白天使は撃墜したとは言え、まだ戦争は終わってないからな。エアリエル、双方全軍に通達！我、白

天使を撃墜せり！！」

「承知しました」

　これで連合の士気は激減するだろう。

「後は始祖機だけだけど・・・・・、諦めて降伏してくれれば・・・」

　そして戦場に歓喜の声と絶望の嘆きが木霊した。ただそこに居る誰もがほっとした安心感を味わった

のも確かだった。憑物が落ちたような。

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