みょ～なトリオ

端麗な滑稽さ

「うわわわッ」

　機体が浮き上がるのを慌てて抑える。脚部バーニアが名残惜しそうに消え、今度は地面に押し付けら

れるような形になる。

「とあッ、はあッ！」

　腕部バーニアを吹かせて姿勢を無理矢理保つ。上半身を逸らしながら直進する姿はさぞ周りからは滑

稽に見えた事だろう。しかし乗り手にとってそれは冗談ごとでは無いのである。

「まーったく、何やっておるんだのゼロライム・・」

　見かねたドランク操る赤い機体が側に寄る。

「そんな事言っても、この機体は何か色々無茶苦茶ですよ。どれをとっても出力があり過ぎるし、ちょ

っと吹かそうとしてもこの有様ですよ・・・。うおッ、よッ、はッ」

　ゼロライム操る黒い機体は不恰好なダンスを踊るように、上へ下へ左に右へと急がしそうだ。

「そんなステップでは予選すら通過せんの」

「笑い事じゃあ無いですよ。助けて下さいよ」

「お主、そんな事はサポート役の精霊に言う事だの」

「この薄黒い奴、何を言っても反応しないんですよ」

　ゼロライムは横のパネルをとことこ叩く。パネルに映る影のような精霊はぼんやりと浮かんでいる。

「おーい、起きてるか」

「呆れておるのだろうの」

　それからドランクは仕方なさそうに、一つ二つアドバイスをした。要するに、オリジナル精霊の処理

能力の高さに慣れていないだけだと。

　しばらくするとそれでも慣れて来たらしく、ゼロライムは多少まともに動かせるようになった。

「ま、そんなもんだろうの」

「ありがとうございます」

　ドランク機は心配そうではあったが、いつまでもそうしている訳にもいかないので自分の持ち場へと

戻って行った。

　今回は先頭にドランクとイザリー、その二機の後ろにそれぞれサラマンダー隊とシルフィード隊が付

き。後衛にゼロライムとドランク部隊と言った陣形である。

　これを見る限り、当然の事だがゼロライムはさほど期待されていない。主に始祖機を打ち破る程の黒

い機体が居る事で、敵軍にプレッシャーをかけるのが目的だと本人も言われ、それに納得している。

　ゼロライム自身も自分にこの機体が制御出来るとは考えていないから。

「そう言えば、今回はシルフの奴も静かだなあ。こう言う時はいつも何かしら小言を言うのに。おーい

どうかしたか？」

　新たに設置されたもう一つの小パネルをこつこつ叩く。

　何度か呼びかけていると、しぶしぶと言った様子でうっすらと小さな女の子、シルフの姿が浮かび上

がった。

「どうかしたのか？」

「いえ、何て言うのですか・・・・そう、何だか怖いのです・・・」

「ん、まあ確かに今回の敵も怖いけど。もう何度かやりあっているだろ。レイウス教官がいないのは辛

いけど、今回はイザリー右将軍もいるし、味方も多いし」

「いえ、そうでは無くて・・・・。この機体と精霊が・・・・何だか怖くて・・・。ともかく頑張って

下さいね」

　そう言い残すとシルフは慌てたようにパネルから姿を消した。

「あッ、おい・・・・・。変な奴だなあ・・・」

　ゼロライムはそう言って首を傾げてみたが、何も浮かんでは来なかった。

「・・・フフ・・・・フフフ・・」

「ん？？」

　変な声がした方を覗くともう一つのパネルの薄黒い精霊が身を震わせるように笑っていた。

「んー、サタナキアだっけ。お前も変な奴だなあ・・・」

「・・・コワイ・・オモウ・・・・チガワナイ・・・」

　サタナキアは再び笑っていた。

　ゼロライムはただそれを不思議そうに覗いていた。

「・・・レーダー・・・ハンノウアリ・・・」

　気がつけば今回の目標である基地はすぐ側に迫っていた。

　マップから見て直線距離にして残り２キロ。何度目かの決戦は目前。

　ゼロライムは両頬を叩き、人知れず気合を入れ直した。

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