死神の憂鬱３

もう嫌だ・・・

「狩ってしまおう」

　ユーリス・モルフェンはとうとう決心した。

　と言うよりも思い出したのである。右手の鎌がただの飾りではない事に。

「とおうぇい！！」

　と振り下ろせば事は済む。

　何と言っても自分は死神だ。腐っても鯛、バイトでも死神。

「なにぼさっとしてんのよ！！もっとしゃきしゃきしてくれません事！？私の貴重な時間をわざわざ割

いて差し上げているのですから、普通は感激のあまりご自分の幸福を神に３０時間は祈る所ですわよ！！」

「ですから・・・、何度も言ってますように。僕は人間の魂を迷うことなく上へと連れて行くのが仕事

なのです。見て下さいあそこを」

　ユーリスはベットを指差した。

　そこには居丈高な少女が静かに横たわって居た。どこをどう見ても目の前の少女に違いない。百人が

百人ともそう答えるだろう。すなわち１００％その少女なのだ。

「何で私が二人も居るの！？手品だか何だか知りませんけど、下らないお遊びは止めてくれませんこと！！」

「いや、ですから。あれは貴方の肉体です。そして貴方は貴方の魂魄」

「だから変な冗談はお止しになっていただける！！私はここに居るじゃあありませんか！！」

「ですからね・・・」

「もう、良いですから帰っていただけます！？私は明日大事なパーティがありますの！！」

　冗談だと思いたいのはこっちだよ・・・。

　ユーリスは疲れた吐息と共にゆっくりと鎌を振り上げる。

「ん、なんですの！？もう手品やお芝居は結構ですわよ！！私飽きてしまいましたの！！」

「・・・・・・・・」

　中年男の悲哀にも似た感情で鎌を一閃。

　からからと乾いた音が響く。

「はあ・・・・濁った金色かあ・・・。最低品質だねこれは」

　ユーリスは元魂魄だった石を取り上げた。

　その石はどす黒くドブの水のように濁っていて。それでいてやけに派手な金色をしていた。見ている

だけで気分が悪くなるような色だ。

「・・・・割に合わない・・・」

　出来高制だったよな、給料は・・・・。

　彼は大きく何度目か解らない溜息を吐いた。これでは二束三文にもならない。反対に引き取り料を取

られそうなだけ、ガラクタよりも性質が悪い。

「さんざん文句言われて、じっとただ耐えて、我慢して我慢してこれか・・・・」

　その石を握りつぶしたい衝動を抑えながら、空を蹴る。

　ローブをたなびかせながら夜の街を移動する。

　途中で人間に化けた同郷者をちらほら見かけた。あんな風に儲けるのが賢いやり方だろうにとユーリ

スは今すぐに止めたくなった。しかし契約した以上はノルマを果たさないと。契約破棄も違反も重罪だ。

それは天でも変わらない。むしろ徹底的に裁かれる。

「いまから悪魔方面の学校に変えようかなあ・・・」

　そんな後悔すら抱かせる夜だった。酷く虚しい。もしかしたら、こういう儲けにもならない人間をバ

イトに任せているのかも知れない。だとしたら

「笑い話にもならないぞ」

　力無い呟きは夜空に染む事すらなく、静かに拡散していった・・・。　　

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