死神の憂鬱４

繰り返す嘆き

　夜の空を翔けるのは気持ちが良い。

　これだけの為に死神になりたがる者もいるらしい。それほどに甘美なのだ。

　飛ぶ、翔ける。

　この二つは人気が高い。しかも下界の風を翔ける事が出来るのは死神だけの特権だった。天使も悪魔

もここでは人に擬態しなければならない。

　何故？それが法だから、掟だから。大いなる者は変化を嫌う。

「もう着いてしまった・・・・」

　永遠に駆け抜けていたい衝動を抑えながら空界に停止する。

　もう少しだけでもいいから、マシな人間であれと深刻に願った。叶える側の者の祈りなど叶うはずも

無いと酷く解りつつも。

　それでも

「祈らずにいられない」

　ゆっくりと下降しながら、可愛いあの子の顔を思い出した。せめて見た目でカバーしてくれと思いつ

つ。そんな自分を嘆きつつ。

「あんた誰？」

「貴方をお迎えに来た者です」

「何その、ダッサイ格好」

「・・・・・・・」

　彼は相変わらずの溜息をついた。

　どうやら何一つ望みは叶わなかったらしい。それも当然と言えば当然なのだが、神様も少しは自分達

にもサービスして欲しいと思わずにはいられなかった。

　何を自分勝手な事をと仰るなら。そういう風に創った貴方が悪いんだ。

「これは・・・・あなた方の言葉に言い換えれば、制服なのです」

「あたしならそんな店には絶対いかない」

「ええ、心配しなくてもこんな格好の者と会うのは生涯一度、唯一人ですよ」

「んで、なんの用なのよ」

　改めて眺める。

　でっぷりとした質感の体型。これでもかとでかい顔。そのくせ無意味に短いスカートと露出度の高い

服を纏っている。どう考えても嫌がらせにしか思えない。服装なんかその人間の勝手なれど、それでも

超えてはいけない線と言うものがあるだろうに。

「ですから、貴方をお迎えに参ったのです」

「お迎え？そんなダッサイ人に迎えられたくないわよ。さっさと帰って」

　ひらひらと横に降られる掌を見ながら、またこれか、またこの類かと心中渦巻いていた。大変に心地

悪い疼きが響く。

「申し訳ないのですが、貴方に拒否権は無いのです。あまり浮遊霊が増えると、交通事情も大変悪くな

りますし、高位の方々に陰湿に言われるのですよ」

「知らないよ、そんな事。あたしはまだ死にたくないの。だから死なない。そしてあんたは帰るの」

「ですからね・・・・」

「あたしには関係無いでしょう」

「どうせ転生なさるなら、気分良くなされた方が良いでしょうに。貴方の態度が良ければ、それもきち

んと加味されるのです。少しでも良い転生をしたいでしょう？」

「そんな事知らないよ。あたしは今が良ければそれでいいの」

　まったく・・・最近の人間は・・・。それなら転生後の今を考えろ。そんな呟きを彼の目は雄弁に語

っている。しかし、そんなものを感じ取れるほど敏感肌なわけも無く。

「だから、さっさと帰って」

「ああ・・・、もういいよ・・・」

「何が・・・」

　カランカランと乾いた音が響く。

　鎌を使うのは最後の手段だとは言え、こんな手合いとまともに交渉出来る者なんているのだろうか。

　最近の人間の質はずっと下降している。自分達で定めた法ぐらい守れよ。そんな呟きが上でも近頃富

に聴こえるのもやっと頷けた。

　しかし。

「やはり、こういうドブ掃除みたいな事の為にバイトがいるのでは・・・・」

　やけにでかいくせに中身が無い、軽くて薄汚れた石を懐に入れながら。

「臭いとかつかないだろうな」

　彼は何かを諦めたように、再び空に踏み出した。

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