死神の憂鬱６

不幸な悟り

　何だか慣れてきて、次はどんな奴だろうと少し楽しめそうな自分が怖い。

　馴れって怖いとはよく言ったものだと改めて感心した。が、それも何だか情けなかった。

「はあ・・・・・」

　溜息からも微妙に嫌気が消えてきている気がする。

　不幸に慣れる以上の不幸があるのだろうか・・・・。

「ふう・・・・」

　少し感じを変えてみても、新鮮さも何も感じられなかった。つまらない生き方だ。

　今までに三つも魂を入手したが、どうにも報われない。鎌を使えば自然に石化した魂よりも質が落ち

るとは言え、これは酷すぎる。持っているだけでストレスが溜まりそうな魂も本当は珍しいはずなのに。

　それとも、もうまともな人間の方が少ないのだろうか。

　だんだん愚かな人間が増えてるような気もすると時折聞いた事がある。色々と甘やかされて、大変さ

を昔よりも知らないせいだろうか。もしかしたら、ただ人間が贅沢になってきているだけなのかも知れ

ない。

　別に人間がどうなろうと今の自分には関係無いのだけれど。面倒が増えているのは確かなんだろう。

「ああ、本来死を告げるだけの役割だったはずなのに」

　死神なんて大仰な名前がついていても、所詮はそれだけの使い走りだったはずなのに。

「サンタクロースになりたい」

　心底そう思った。人に関わるのは一年に一日で充分過ぎる。

　それでもこうして空を翔けている時は心が透き通って穏やかになる。

　でも、それも・・・

「ほんの２，３分もすればまた・・・・」

　そんな思いも抱えつつ。ゆっくりと屋根に降り立った。

　頭だけ下げて対象の部屋を覗き見る。

「ふうん・・・これまた新たな・・・」

　すでに電気は消えていて、静かな闇が鎮座している。

　思えばこんな夜中にまだ起きているのがそもそも間違っているんだ。人間はこうあるべきなんだ、夜

には寝ろ！！と叫びたくなる自分を抑えながら窓をすり抜ける。

　室内は当たり前だが真っ暗で微かな吐息だけが・・・

「ん？？」

　何だか吐息では無く変な物音が聴こえる。何かを擦り合わせるようなそんな微かな音が。

　さらに耳を澄ますと微かな声らしきものも聴こえてきた。

　聴覚に神経を集中する。

「・・・・いちま～い、にま～い・・・・」

「？？？？」

「フフ・・・、さんま～い、よんま～い・・・」

　部屋の隅に蹲っているそれに静かに近寄る。

　泥棒の類だとすれば、さっさと出てもらわないと仕事の邪魔になる。

「フフフ、溜まってきたわねえ・・・」

「何がですか？」

「決まってるじゃない。お金よお金。こうやって一枚一枚数えるのがお金の醍醐味よ」

「・・・・・・・・・・はあ」

　溜息と一緒に大事なものが少しずつ消えていっているような気がした。多分気のせいなのだろうけれ

ど。自分は無くすのではなく、与える側なのだから。

「って、誰よアンタ。女の部屋に夜中に忍び込むなんて・・・・高いわよ」

「は？」

「罰金よ、罰金。払わないと刑務所にぶち込むわよ」

「貴方も・・・大人しく連れて行けませんよね？」

「何言って・・・」

　てっきり金色かと思ったその石には色も何も無く。ただ一万円札だか言うものが細かく細かく掘り込

まれていた。表面どころか、内部までびっしりと・・・。

「ははは、楽しい仕事だ・・・」

　少し壊れそうになる自分に泣き笑いしながら、もうそういうものは忘れる事にした。

　忘れる・・・・何て素晴らしい。

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