死神の憂鬱１０

凍える吐息

　寒い・・・・・。

　幾らなんでもここまで冷え込むと辛い。真っ黒なローブがはためくのをビルの窓ガラス越しに見てい

ると、我ながら鴉のように見える。

　真っ暗な景色に真っ黒な格好。

　見るからに寒々として幸薄い。陽炎のようにゆらゆらと。

　見下ろせば人間達も大して変わらない姿でぽつりぽつりと歩いている。自分にはまだまだ死相までは

見えないが、あれでは死人と大して変わらないように見える。むしろ死人の方が生き生きしてると思う。

　それでも生きてるから幸せだと思うらしい。

　人間は不思議だ。自分達も不思議だ。

　何より死神が。

　体の芯から震えながら。

「お迎えに来ました」

　そして言い争い。最後は鎌で。

　こんな事を何度やれば良いのだろう。

　担当する人間の名前の記されたメモは、捲っても捲っても無くなる気配が無くて。魂の色はどす黒く

て不快で何もかもやるせなくて。でもやるしかないのが更に疲労感を漂わせる。

　苦労した分だけ損をする事になるって言うのが多分一番辛い。

　その分清らかな魂を持っている人間に出会えると、色んな意味で見返りが大きいのが良かったのは今

はもう昔の話。本当は宝石に変化するのが当たり前だったと言っていたのを、前に何処かで聞いた事が

ある。

　ここから夜の町を歩く人間を見ているだけでもそれはよく解るから、余計に憂鬱になる。

「それがはっきりと目に見えるから・・・・」

　懐の石達を見てしみじみ思い知らされるのはいかにも慣れない。

　そして否だ嫌だと思っても止めると抹消だからどうしようも無い。

「本当にどうもこうも無いから・・・」

　吐息だけが白いのも何だか嫌だ。

　だんだん慣れて来て、あっさりと鎌を振るえる自分を嘆きつつも。

　そこはかとない諦めを受け入れる自分に納得する。

　本当は苦労しかしてないのじゃないかと何かに問い掛ける日。その日はただただ寒い。

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