死神の憂鬱１１

止める為の言葉を

　疲労感が身体を侵食して行く。

　全知全能の神様が何故に我らに疲労などと言うものを与えたのかは解らない。ただ、我らに効率のみ

を期待したのでは無い事は確かだった。

　多分、完全である御自分に自身が満足なされていなかったのだと思う。不完全に対しての憧れと言っ

ても良いかも知れない。しかし神様の御心は神様のみが知っておられる。自分などがそれを察しような

どと思う事自体も畏れ多い。

　自分の非を謝罪し、許しを乞うべく祈りを捧げる。

　御心に届いただろうか。

　

　改めて仕事に励む事にする。

　疲れると感傷的になるのは仕方がない事でも、それに甘えてはいけない。己で許してはいけない。許

しを与えるのは神様だけなのだから。

　夜風に震えながらも次の対象者の住居に辿り着く。

　先ほどの土管ほどでは無いとしても、酷く質素で簡素な家だった。隙間の多い板張りの外壁がもの哀

し気に佇んでいて、何だか見てる自分もとても寂しく感じた。

　隙間からゆっくりとすり抜けると、若い女性と小さな子供達が寒そうに身を擦り合せて眠っていた。

　そして一人の子供が小さな掌で隙間を塞ごうと必死になっていた。

「おじちゃんはだれ？」

　擦り切れそうな程か弱くて小さな声だった。

「君をお迎えに来た者です」

「おむかえ？でもぼくはここをふさいでないといけないんだ、ごめんね」

「塞ぐ？」

「うん、ふさいでないとみんながさむいから。だからぼくがずっとふさいでるの、もうしゃべることも

さわることもできないけど、だけどずっとふさいでるの」

「・・・・・・・」

　この子供は自分が死んでるのが解っているみたいだ。今までとは違う暖かな吐息が自然に漏れた。

「ふさいでないとさむくってこごえちゃうから」

「そうですか・・・、でしたら代わりに塞いであげましょう」

「えっ、ふさいでくれるの？」

「ええ、君を天までお連れしないといけませんから」

「わかった。ふさいでくれるならぼくいくよ。さみしいけどぼくいくよ」

「ではご自分の運命を受け入れて下さい」

「うん・・・・」

　小さな清らかな石が掌に恥ずかしそうにころころと揺れていた。

　磨けばどんな宝石にだって変われるだろうと思える、そんな石が。

「神様・・・・か弱き子羊に御慈悲を・・・・、願わくば彼の者達にも祝福を」

　隙間をすべて塞いだ後、大切に石を別の所にしまってゆっくりと飛び立った。

　地上界との干渉も今だけは認めて下さるだろう。

　でもなんで清らかな者ほど早く召されるのだろう。神様の寵愛だろうか、それとも清らかな者には耐

えられない世界なのだろうか。

　確かに汚れている・・・。

　そして風はどこまでも冷たい。　

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