死神の憂鬱１２

病める事無き真実を

　空に溶け込んだ己が身が暗い。

　心もそれに比例しているような気もする闇を、掻き分けるように進む。

　ただ解るのは理不尽な何かが蟠っていると言う事。囁く祈りも寂しい。

　身を切る寒さを恨みながら清らかな石に来世の幸を望む。

　常しえに不変なものなんか無いから、不幸は繰り返さない。幸も繰り返さない。

　せめて祈りを。

　冷たい光が刺し通る中で少しだけぬくもりを感じる暖炉の側。

　しとやかな猫と共に静かな老女性が眠りにつくように揺れていた。

「お迎えに参りました」

「は・・・・何とおっしゃいました？」

「天からのお迎えです」

「はあ・・・最近めっきり耳が遠くなりましてなあ」

「つまりは死神です」

「へえ・・・ちり紙ですか。それならそこのテーブルに」

「いえいえ、違います。死神です」

「はあ、それはそれはご苦労様でございます」

「これはこれはご丁寧に」

　悪意の無い妨害ほど辛いものはなくて、ちらちらと降り始めた雪のように抗えない冷たさを持ってい

るようにも思える。

「では、お連れしましょう」

「何処へですかねえ？」

「いや、天にです」

「はあ、最近は天にも旅行に行けるのですか・・・・」

「いえ、違います。貴方の寿命は尽きてしまったのです」

「ええ、ええ寒いですねえ」

「・・・・・」

　仕方が無いので紙とペンを拝借して筆談に移る。

　すったもんだの挙句、どうやら理解していただけたようだ。また別の理不尽な何かを感じた。

「この子が心配ですねえ・・・・」

　猫の事を心配しながら、淡い輝きに姿を変える。

　静かな温かみを感じるが何処か抜けた色をしていた。

　猫がくぐもった声をあげて、また静かに眠りについた。２，３度撫でると煩そうに首を振った。

　それを横目に静かに窓をすり抜ける。

　使用人達の騒ぐ声もまだ無く。静かな夜空に浮き上がる感触は慣れても心地よいものだった。

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