死神の憂鬱１３

歌うように躍るように

　脈動する熱き血潮も無くて、ゆらりゆらりと揺らめく身体は如何にも儚くて。自分はまだ役職も無い

から存在意義も無く、その上死神のバイトなんてヤクザな事をしている。

　出会った人間も如何にも人間で、絶望と自分勝手を絵に描いたようで嘆かわしい。それでも狩りつづ

ける事に意味があるからと思ってみても、熱い何かが湧き上がってくる訳でも無く。少しの寂しさを感

じる人間も要るのが余計に解らなくて、どうしようも無い堕落も感じる。

　身体を振る度に乾いた音色を響かせる石達が主に酷く憂鬱な気分を盛り立てる。嫌だ嫌だと言いつつ

もすでに選択の余地も無く、ただ指示のままにやってきたのだが。それにも疲れ、死神に不似合いなも

のに襲われている。

　澄み切った夜空は吸い込まれるようでいて、自分はむしろ吸い込む方の側だと思うとそれも何だか味

気無く感じるのは何故だろうか。

　それにしても。

「疲れた・・・・・・・」

　少し休もうと高いビルの屋上でごろりと転がる。星は煌く程に瞬いていて、自分が居る天もあれの一

部だと思うと少し誇らしくもあった。衣服は擦り切れていて、割に合わない仕事だとつくづく思った。

こう思える事も不幸だと思いつつ、再度飛び立つ。

　星々と街の明かりが雪に反射してなかなかに景色は良いけれど、身体に積もると寒さが浸透してくる

のが辛い。けれどこのまま風にでもなって、永遠に流れて行くのも良いかも知れないと思った。

　きっと楽しいと思う。

「うーん・・・・」

　やはり人間の街はゴミゴミしてていけない。もっとさっぱりしていれば、探し物にも困らないのに。

　それからしばらくきょろきょろとして、何とかそこへと降りて行った。

　戻ったらマッサージに行こう。

「もしもし、死神さん」

　ふと呼び止められた。それは年老いたらしい犬で、飼い犬らしく薄汚れた首輪をしていた。如何にも

貧弱で弱々しく、素人目にも先は長くないと見えた。まあこういうのは大抵当たらないんだけども。

「何か？」

「お願いです、私を連れて行って下さい」

「見た所、まだ寿命は切れていないようですが」

「もう苦しくて苦しくて、この寒さも身にしみて・・・。どうせ長くないのでしたら、今連れて行って

下さいな」

「うーん、困りましたねえ・・・」

　定めと運命に厳格な死神長と神様はそれをお許しにはなられないでしょう。寿命はその者の行いや意

志で多少は増減も致しますが、それでも勝手に変えてはならないのですと何度言い聞かせても老犬は納

得しない。もう天に召される事のみが私の救いなのですと、とても強情だ。

　先ほどの子供が聞けば火を噴いて怒りそうな言い分ではあるけれども、それでもこういう事もある。

　けれど一死神には生死をどうこうする権限も力も無いのも確か。

「申し訳ありませんが、管轄も違いますし。勝手に死を与えると後の罰が恐ろしいので・・」

「そんな事を仰らずに私を助けて下さい」

「そう言われましても・・・・・」

「お願いです、お願いです」

　必死に頭を下げる老犬には憐れも覚えてしまうが、それでも・・・・

「出来ません。出来ない事なのです」

「そんな・・・・・こんなにお願いしていますのに。私の生は後は苦しみだけなのです。神のお慈悲を

お慈悲を」

「・・・・・・先を急ぎますので」

「あっ、そんな。後生です。お願いします」

　貧弱な身体を必死に動かしながらついて来ようとする老犬を後ろに感じながら。振り切るように地面

を蹴る。

　となりの家に入り込むのを見ながら、老犬の嘆く声が淡い呻きとなって聴こえる。

　神様の目線は遥か高いから、そんな声では決して届く事は無いだろう。　

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