死神の憂鬱９

そもそもの疑問

　宝石もどきみたいなものではあったけど、それでも遥かにマシな石が手に入った。小さな事でも一つ

一つ感謝して喜んでいく事が不幸打破への近道だと思う。そう思う事にしよう。

「次は・・・と」

　空を蹴る事にも慣れて来て、軽快な足取りで翔けて行く。

　繰り返せば繰り返すだけ得るものがありスムーズになっていくのは、人も自分達も同じらしい。成長

する力、それは神様の創造物に等しく与えられたものでもあるそうだ。でも高位の方々はその変化をも

嫌う。矛盾も等しく与えられたものだと思う。私見だけども。

　次の仕事先はなんとした事か空き地に横たえられた土管だった。

　とりあえず土管をノック。

「いらっしゃいますか？」

「間に合ってます」

　ご在宅らしい。

「訪問販売員ではありませんので、ご安心下さい」

「ではどなたですか？」

　中から見目麗しい女性が出てきた。真っ黒い綺麗な髪がさらりと揺れる。化粧も何も必要ないと思う。

「死神です」

「冗談も間に合ってます」

「冗談でしたら助かるのですが、生憎仕事でして」

「それはそれはご苦労様です」

「いえいえ」

　こっちに来て初めてお辞儀しあった記念すべき時。

「それでは参りましょうか」

「お断りします」

「ええと・・・・それはどういう・・・」

「私はここが気に入っておりますので、ここから離れるつもりはありません」

「それでは困ってしまうのですが」

「私も困っております」

　そしてどちらも譲らないいつもの時。

「残念ですが、寿命も尽きてしまいましたので」

「それはそちらの言い分でしょう。私はまだここに居たいのです」

「そう仰られましても・・・」

　悩みながらも自分は何をやってるかと思う。頑張れば頑張るほど自分が滑稽に思えてしまうのは何故

なのだろう。他の誰かから見れば尚更と思うとまた溜息が込み上げて来る。

「例え神のお使いであろうとも、私の意思を阻害する権利は無いはずです。人に上下無く、等しく神の

子であり神の愛を注がれると教義でも仰っているではありませんか」

「ですから等しく死も訪れるのです」

「何故私だけが死ななければならないのですか。等しく同時に死ぬべきだと思います」

「それは・・・暴論かと・・」

「何を言いますか。真の平等とは生まれも育ちも生も死も、幸不幸に至るまでまったく同じでなければ

おかしいのでは無いですか」

「人は平等ではあっても同じものでは無いのですよ」

「それこそ暴論です」

「・・・・・・はあ」

「ですからまだ・・・・・」

　転がり落ちた黒曜石はどこからどうみてもきっちりした正角形で、とにかくきっちりはしていたが偽

物だった。つまりは紛い物、模造品、思い込み。

「あっ、何だろう・・・何かこう・・・」

　訳の解らないモノが感情を走った。

　そんな事よりも。

　そもそも何でわざわざ魂を回収に来なければならないのだろう。自分で天に還ればいいものを・・。

これは多分、余計な苦労。だから憂鬱。だから溜息・・・。　　

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