死神の憂鬱８

既視相関

　本職の死神さんの話を聞いてますます希望も無くなったような感じがした。

　だから自分はバイトだから、今回だけだからと自分を慰めた。物は言い様と言う事。

　現状を打破すべく鼻歌交じりで飛んでみる。

　少し新鮮な感じがした。

「次の魂はせめて綺麗な石になってくれるといいな」

　そんな思いを抱えながらゆっくりとアパートの一室に侵入する。

　幸薄そうな少年が一人ぼけーっと怪しい侵入者を眺めていた。　

「どっ、どなたですか？」

「所謂死神です」

　普通に驚いてくれている事に何故か安堵感を得ながら完結に応える。

「しっ、死神ですか」

「ええ、お迎えに参りました」

「やっぱり僕は死んだのですね・・・・」

「残念ですが、そういう事です」

　会話が成立するのがとても嬉しく思う。やはりこうでないと。

「僕が二人居るから変だ変だと思っていたんだけど・・・。何で僕が死んだのか聞いても良いですか？」

「ええっと、そうですね」

　メモを捲って見る。

「・・・・・うーん・・・・、多分聞かない方が・・・」

「言って下さい」

「そうですか・・・。死因は所謂窒息ですね。ええとあの戸棚の上に置いてあったお餅が、偶然貴方の

口の中に落ちたようで。そしてこれまた不運な事に貴方は一度眠るとちょっとやそっとでは起きられな

い。そうこうしてる内に更に不運が重なりまして、口内にへばりついてしまったらしいですね。そして

起きた頃にはもう手遅れだったと。簡潔ですがこんな感じみたいです」

「はあ・・・・」

「まあ来期は幸運が訪れるように天で頑張る事も出来ますから」

　何だかここまで馬鹿らしい死に方をされると、同情を通り越して何とかしてやりたいとまで思ってし

まう。今までが今までだったから余計にかも知れない。

「なんと言いますか・・・死者は平等ですから」

「はあ・・・・、でも最後までこんな間抜けな死に方なんて・・・・。いつもいつも人には苛められ、

親には呆れられ、女の子には馬鹿にされ。死にたい死にたいと思って、いざ死ねてみればこんな様なん

て・・・。死者って死ねるのでしょうか・・・。もう一度死にたい気分です」

「死者が更に死ぬと言う事は・・・・そうですね、消滅でしょうか」

「消滅？」

「ええ。消えて無くなり未来永劫居なくなると言う事です。でも貴方の魂はそれほど罪深くは無いです

から、例え望んでも無理です」

　可哀想と言うか哀れみまで感じつつ、死んでから死にたいなんて初めて聞いたと言う驚きと相まって

物凄く不思議な気分になった。死に際どころか死に方まで不幸なんて・・・・。

「そうですか・・・、無理ですか・・・・」

　少年は酷く残念そうだ。存在していられるだけでも酷く幸運だとも思うのだけれども。

「まあ、何と言いますか。そう、死んでしまえばもう生きてる世界の事なんか意味を持ちませんので、

誰も貴方をどうこう言ったりはしないですよ。結構あっちでも忙しいですので、人にごちゃごちゃ言っ

ている暇もありませんし」

「そうなんですか？」

「ええ、死んでますからもう余裕も無いのです」

「ああ、なるほど。じゃあさっぱり死にます」

　何だか自分でも良く解らないけれど、何だか納得してもらえたらしい。でも、さっぱりも何ももう死

んでいるのだけどなあ。

「そうですか、ではご自分の現在の状況を受け入れて下さい」

「はい・・・」

　少年は薄明かりと共に小さな小さな宝石に変わり、静かに横たわった。

「うーん、これはこれで微妙だなあ・・・」

　多分蒼っぽいのでサファイアだと思うんだけど、何だか色が薄いので良く解らない。石類にもそう詳

しくも無いし。

「やっぱり微妙だ・・・ふう、まだマシなのかなあ」

　その呟きと共に漏らした吐息は溜息なのか安堵だったのか、自分にも解らなかったように思う。

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