死神の憂鬱２

こいつだよ・・・そもそもは

「よお、ユーリス。一緒にバイトしねえ？」

　友人にそう言われたのは夏休みに入る前の日だった。

　僕は特に予定も無く。大した目標があるでもなく。この休みもただ鬱然と過ごすだけだったし、金が

ある訳でも無かったから何となく頷いた。

　そこに何か溌剌とした思いがある訳でもなく。ただ、学生と言えばバイトだろうという。ただそれだ

けの理由だった。特に贅沢がしたい訳でも、食うに困っているほどでも無かったのだ。

　選んだのは確かに自分だけど、そこに確たる思いは無く。ただ惰性で選んだと言う経験は誰にでもあ

ると思う。この時の僕が正にそれだった。

　だから

「ああ、やろう」

　と特に考えもせず安請け合いをしてしまった。

　それがそもそもの間違いだった。よくある話だ。けれどそれが自分に降りかかってくるまで、反省と

言う言葉を幾度も幾度も忘れてしまう。悔い改めようと毎回思うのに・・・。

「じゃあ、明日18時にここな」

　渡された紙を見て度肝を抜かれた。そう、吃驚なんてもんじゃ無い。こいつ正気か？と本気で奴の頭

の中を心配した事を覚えている。

　その紙には

「バイト死神募集！！優遇、時給高し！！」

　と書かれていた。

　よりにもよって友人の持って来たモノはあろう事か死神のバイトだった。

　次の日。僕はしぶしぶ出掛けた。

　はっきり言って生涯最高の行く気の無さだったが、約束違反は重罪だ。僕は前科何か付けたく無い。

何より罰も怖かった。　

　友人は憂鬱な僕の顔を見ても努めて明るく。

「まず面接を受けるんだってよ」

　僕は面接で落とされるのを神様に祈った。本来は僕らが祈りを聞く役目なのだけど。

　いかにも金をかけてませんと言うオンボロの戸を開けると、悲鳴のような軋み音が。

　今にも抜けてしまいそうな床をゆっくりと歩く。

　床の上げる悲鳴がとても耳障りだった。

　数ｍ先の部屋に入ると、真っ黒い顔が隠れるほどのローブを着た誰かが座っていた。

「こちらへおかけ下さい」

　僕らもゆっくりと座る。

「面接は一人ずつ行います。まずは貴方から」

「はいはい」

　友人と黒ローブは奥の部屋へ消えて行った。

　僕はと言えばすっかり雰囲気に萎縮されてしまい。ただ頭の中に、何で僕はこんな所に居るんだ？と

言う疑問だけが浮かんでいたる有様だった。

　室内は物音一つせず。友人達が居るはずの隣室からも話し声どころか、誰かが居る気配すらしなかっ

た。静かと言うよりは、意思在るモノは存在しない、そんな感じだった。

　ただただその部屋は薄暗かった。

　一人で何も出来ずに座っていると、奥から次の方、と呼ぶ声がした。

　僕はビクビクしながら奥へと入った。

「では、これが正装になりますので。ちゃんと着て行って下さい。ああ、そうそう鎌を忘れずに。人間

のイメージを実践するのは手間がかかりますが、こういうのは雰囲気が大事ですので」

　そう言って黒ローブに野暮ったいローブといかにもな鎌を渡され。

「えーと、貴方はここの担当ですね。仕事は丁寧確実にお願いしますよ」

「あ、あの・・・面接は・・・？」

「ああ、うちは万年手不足でして。贅沢を言って選んでる余裕は無いのですよ。まあ失敗するとこれで

すから、真面目にやらない輩なんていないのです」

　そう言って黒ローブが首を手刀で切る仕草をした。

「さあさあ、下でお迎えを待っておられる人々は腐るほどいるのです。余計な問答している暇があった

ら早く行って下さい」

「え、あの・・・」

　何だか解らない間に僕は下界へ転送され、この人間の前に現れて今に至る・・・。

　だからあいつが・・・。

「ちょっと、聞いてるの！！下賎の者が私の言葉を聞き流すなんて、十億年は早くってよ！」

　そう・・・あいつが悪いんだ・・・。

　ユーリス・モルフェンは早々と挫けかけていた。　

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