朝から忙しいよね皆

平穏というものは風のように吹き荒んで行くもの

　　今日も今日とて僕は早起きさん♪

　　皆勤賞狙ってる訳でも無いけど、遅刻が続くとお小言が多くなるのでそれは避けたい。余計な苦労は

　しないに限る。若いうちの苦労は買ってでもしろって言うけども、僕の場合は売り切れないほどあるの

　ですよ、エフヘヘヘヘ。

　「褌総ー！朝ご飯出来たぞー！！」

　「今、行くよー！！」

　　来るよ、なんつって。

　　我が家は父さんと二人暮し。母さんは小さい頃に病気で逝ってしまった。今はもう写真立ての中に姿

　を見るのみ。

　　哀しい淋しかったと言えばそうだけど。今は父さんとほのぼの暮らしております。元々家事一般は父

　さんの方が得意だったから、なんとかやっていけている。母さんはそう言うのが苦手で、いつもドジド

　ジな毎日でした。でも、優しくてあったかい人だったのは覚えてる。

　「うおらぁあー！！偉大なお父様のお料理様が冷めるだろうがぁあー！！」

　　如何、親父様を怒らすと来月の小遣いに響くなり。

　　脱兎の如く廊下を駆け抜ける。そして当然、片付け忘れた雑巾に滑ってそのまま飛び込み前転をして

　くるりと起き上がり居間へ直行する。

　「おう来たな息子よ。リミットまで後１５秒だったぞ」

　　この親父も歯が光る。しかも年季の入った渋みも感じさせる、無駄に・・・無駄に渋い。正しく渋味

　なのだ。

　「間に合って良か・・・・・？？？！！！！」

　「息子よ。いい加減扉の上には壁がある事を学びなさい。父さんちょっとそれ見るの飽きてきた」

　「・・・・・・・さいですか・・」

　　そうして何事も無く一家団欒の朝食になるのであります。

　　今朝は豆腐の味噌汁に昨日の残りの焼き魚のフライ。白いご飯があれば幸せさ。それが大和の心意気

　ってなもんよ。

　「いただきます」

　　この一言だけは産まれてこの方記憶にある限り父と合わなかった試しは無い。何故かいつも申し合わ

　せたようにぴったり合唱してしまう。これも血のなせる業だろうか・・・・でもおっさんと合ってもな

　あ・・・・やれやれ。

　「今日はあれだな・・・・・うんあれだ・・・」

　　新聞読んで変な事をぬかすのもいつもの事。

　「だっはっはっは」

　　ちなみに父は四コマ漫画を愛読している。　

　「おっと、そろそろ頃合だな。後は任せた」

　　父さんは一足先に出勤する。実は何処でどんな仕事をしているのか詳しい事は知らない。聞いても、

　あああれだよあれ例のやつ、としか言わないし。まあ、食っていけてるから気にしてない。別に何でも

　いいしさ、仕事なんて。

　「じゃあ行って来るぞ」

　　父がすたこら出かけた後は、早速朝食の後片付けに入る。これが僕の主な仕事だ。何しろ父は何かを

　するのは良いけど、片付けるのはめんどいから嫌と言う座右の銘の持ち主であるし。座右の銘になって

　るのかは別として。

　「ふんふふんふーん♪ツッダツッダダダ♪」

　　何故だか家事をしている時に限って不幸が起こらない。僕は母が守ってくれているのだと解釈してい

　る。でもどうせならいつも守ってよ母さん・・・。

　　そして母さんの写真に

　「行って来ます」

　　それからのっこらのっこら歩いては溝に嵌り。えっこらえっこら移動しては電柱にぶつかる。

　　何で人間は二つ目があるのに下と前を同時に見れないんだッ！！！

　「何一人で悶えてるの？」

　「いや、人類普遍の法則とやらに対する反論と個人的な見解を・・・って高見さん！！」

　　振り返ると穏やかな顔をした女の子が一人健やかに笑っていた。

　「わッ！吃驚するじゃない、いきなり大声だして」

　「あッ、御免。割と何か癖になってて」

　「ふふ、こっちに来て初めての友達だし許してあげる」

　　悪戯っぽく微笑む彼女をアホ面で眺める僕の図。

　「友達？」

　　そのままボケ～っと自分を指差す。

　「えッ、あッ、ごめんなさい。私が勝手に友達と思ってて、えっとその」

　「いや、良いんだって。友達かあ・・・友達・・フフフフ」

　　思わずにんまりしてしまいました。

　「へえーそうなんだ。木城くんはＢ組かあ。私はＸ組になってしまったの。ここって変わった・・・じ

　ゃなくて面白い人多いよね」

　　高見さんは表情がくるくる変わる。見てて大変楽しいのです。そう言えば、ちょっと口調がくだけた

　感じになっててまたしてもにんまり。

　「それでね・・・・」

　　それから学校まで仲良く登校しました。高見さんは早く家を出てのんびり歩くのが好きらしくて、こ

　れからも朝はよろしくね、と言われてしまったのです。にんまり所か涎ものでした。

　「あ、じゃあ私こっちだから。またね～」

　「うん、じゃあね～」

　　てけてけと駈ける高見さんを見送る。う～ん、ベストオブ可愛いの称号を勝手に授与させていただこ

　う。

　「ほほう、怪しいですねえ・・・」

　「んー、何だ何が怪しいんだよ溝口？」

　「いえいえ、何がと言うよりも寧ろ怪しいのですよ」

　　この男、溝口　貴志（ミゾグチ　タカシ）。私立探偵研究会会長にて人呼んで怪しマン。ともかく何

　にでも首を突っ込んで怪しいを連発して既成事実を作って、それをさも発見したかのように操作する男

　と呼ばれている。うーん、ややこしい。簡単に言えば校内変人２位の男だ。１位は勿論赤司。

　「しかし、まあ彼女は転校初日よりすでにかなり高い位置にランクインされましたので、ライバルは多

　いと思われます。そこで私にご依頼いただければ、貴方に有利な情報をいくつか仕入れて来ますが。は

　てさてどうされますか？」

　　眼鏡を上げるその仕草が妙に似合う男なんかと関わりたくないのは山々なれど、他のアブノーマルな

　奴らに雇われるよりは・・・・・。

　「しょうがないな・・・。ただし、口外法度だぞ溝口」

　「依頼内容を口外したりはしませんよ。では必要経費はお昼にいただきますので、失礼」

　　こいつは小柄の上に素早いのですぐに見失う。まあ、見てたくも無いけどね・・・。

　「しかし変な奴が多いなあ、確かに・・・」

　「お前もきっとその中に含まれていると思うぞ」

　「おお、真弓唐突に。おはよう」

　「ああ、おはよう。いつも早いな、相変わらず」

　　何時の間にか後ろに真弓が立っていた。こいつも結構な長身なので、確か1７２くらいとか、僕と並

　んでも大差ない。

　「相変わらずのノッポさんだなあ」

　　掌で測ると丁度僕の額の辺りにくる。

　「う・・・そうだよな。ちょっと高過ぎるよな女としては・・・」

　「ん、良いんじゃないの。格好良くて」

　「そ、そうか？」

　「ああ、弓を射る時もばっちり似合うじゃないか」

　「そうかそうか。高くても良いのか」

　　何だかやけに嬉しそうだ。まあ、こう見えて中々ナイーブだしな。以前クラスメートにからかわれた

　時やらも大変だったなあ・・。まあそれはまたのお話。

　「背なんか関係無いだろうに。在り来たりの台詞だけど。やっぱり人間中身が肝心さ。合う合わないっ

　てのが人間関係築く上で一番大事だと思うぜ」

　「ほう・・・たまにはまともっぽい事も言うんだな」

　「何だか酷い言われような気がするんだけども・・」

　「何を言っているんだ。誉めてるんじゃないか」

　「そうかあ・・・？」

　　まあ、こいつの憎まれ口も慣れれば気持ち良いさ、ははは・・あははははは・・。

　「あ、チャイムが鳴った。ヤバイ、じゃあまたな木城」

　「ああ」

　　僕もいそいそと教室へ入った。つーか真弓足早えなあ・・。

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