怠惰な日々が羨ましい

遥かな高みに上るには不変の・・・

　「グッ、モーニン！みつふさン」

　　教室に入ると当然のように無意味にはしゃぐ赤司のごあいさつ。

　　昔からこの光景だけは変わらない。

　「いやあ、今日もいい日だねえ。みつふさン、こういう日は太陽を浴びまくろうぜ」

　「ああ、今日は体育もあるしな」

　　それから急いで席に着く。油断してると先生が来てしまう。

　「おはよう、褌総くん」

　「ああ、えっと・・・おはよう・・・えっと・・・めぐタン」

　「ふふふ、今日も楽しく過ごしましょうね。うふふ、ぐふふふふふっ」

　「ああ、うんまあよろしくね」

　　とめぐタンをやり過ごす。

　　眼が怖いんですけども・・・、ははは。ははは・・・。

　　そしていつもの筆談のＨＲを過ごし。

　「礼！」

　　と言って去る柊先生を赤司が熱い目で見送り。

　　授業の小テストでは見回りの先生に右に出せば右で、左に出せば左で出した足を踏まれ。

　　嫌な問題の時に限って先生とばっちり目が合い。

　　うつらうつらすればチョークが飛び交い。

　　体育のサッカーではボールを蹴ろうとしてはスッ転び。

　　ドリブルしては間違えて足を引っ掛けられてスッ転び。

　　パスを受けてはカットされたついでに肘打ちされてスッ転び。

　　ヘディングしようとしてはキーパーに吹っ飛ばされてスッ転び。

　　スッ転び人生か・・・と悟りの境地に至る程にいつも通りの記憶がまた身体に刻まれた訳です。

　　いやいや、へこんでなんていませんさあ。

　　もう今日は帰れるしねえ。まあ、帰宅路も危ないけどもウヘヘイ。

　「まったく、なんて顔してるんだ。いつもながら」

　「いつもながらは余計だ、真弓」

　　突っ込みは常に忘れない。これぞ男の心意気。

　「それよりも、どうしたんだ？お前は部活だろ」

　「私が来るわけは一つだろう」

　「おお、とうとう愛の告白かね、まゆみン」

　「なっ、ななな何を、何を言っている」

　「赤司・・・・」

　　真弓が純情少女だってお前もよおっく知ってる癖に・・・。いや、こいつの事だから忘れてるかも。

　いや、忘れてる確実に。そういう奴だったこいつは・・・。

　「なんだい、みつふさン」

　「いいや、何でもないよ・・・」

　「元気出せ、みつふさン。何があった！？」

　　お前だって・・・・。

　　真弓はもじもじして、違うだの何だのと知らない何かと交信中。

　「真弓、真弓？」

　　とんとんと肩を叩く。

　「うわっ！！」

　　と振り払われ

　「違うからなっ！！」

　　と真っ赤なままで走り去って行かれた。

　「違うそうだぞ、みつふさン」

　「ああ、何かが違うらしい」

　「ううむ、世界の七不思議の七が学校七不思議に与えた影響とその可能性理論がか」

　「それは多分違うと思う」

　　うーんと考え込んだ赤司は美女か好物を与えるまでは大よそこのままだ。

　　しかしこの日は珍しく

　「そう言えば、あいらンが何か見せたがっていたぞ」

　　と、ふと思い出したように呟いた。

　　そうして、いつものように赤司を放って教室を出た。

　「狗引がなあ・・・また例の試作品かあ・・」

　　科学部への道のりを歩む。

　　さる人物が住む。文字通り住むその場所は部室棟の中でも薄暗い北側の、しかも階段の横を入った隅

　と言う奇特な場所に在る。

　　初代科学部部長が部室選びの際に入念な下調べと、世知辛い計算によって選び抜かれたこだわりの一

　品らしい。何でもドラキュラ真っ青の日光恐怖症だったとか何とか。

　　それから代々この部からは偉大なる変人達が巣立っている。

　　ああ科学部よ永遠なれ・・・・。

　　そして未知なる探究心への扉を開く。その偉大なる変人達の跡を引き継ぐが如く。

　「遅かったわね、私を待たせるなんて十億光年とんで２１年早いわ」

　「まーた変なもの見せるんじゃあないんだろうな、狗引」

　「まっ、輝ける未来への第一歩を先駆けて見せてあげようっていうのに。感謝こそされ、そんな事を言

　われる筋合いはないわよ」

　　偉大なる大変人はぷんすかご立腹。

　「はは、悪かったよ。いつもの大発明を見せてくれよ」

　「フフン、貴方もやっとあたしの偉大さが理解出来つつあるようね。そこは誉めてあげるわ」

　　そう言って、くいっっと押し上げた眼鏡がきらりと光る。

　　この偉大なる大変人こと、赤司、溝口と並ぶ霧高三巨頭のお一人だ。つまりは変人ナンバー３こと、

　狗引　藍莱（クビキ　アイラ）。まあ、この三人の順位は甲乙付け難いのだけども。取り合えず、便

　宜上はこの順になっている。

　「ああ、ありがとさん」

　　天才は誉め殺しに限る、フフフ。

　「それで今回はいけそうなのかい？」

　「失礼ね。いつもイケそうよ。ただちょこっとした勘違いと微妙な空気圧か何かで＋αな作用なのよ」

　　相変わらず、難しいようで簡単なお話。ようするに失敗作だったと。

　「じゃあ、早速見せてくれよ」

　「任しといて、今回は大丈夫だから。多分」

　　やっぱり自信なかったんじゃないかい。

　「さあ、起動せよ。人類の英知の結晶にして、至高の友よ」

　　そう言って大仰なシーツを剥がす。

　「じゃじゃじゃじゃーん♪」

　　そこには人間型の機械が鎮座していた。

　　そして狗引が側のこちらもまた輪をかけて大仰な機械の、一個だけあるスイッチをぽちっとなと押す。

　「さあ、今こそ立ち上がれ我が僕！」

　「友じゃなかったっけ・・・」

　「立つのよッ！！」

　　ナチュラルに無視されてもめげないのが楽しく生きるコツさ・・・あははははは・・・。

　　機械人間の目が点り、身体中が薄く発光する。

　「だっ、大丈夫かコレ！？」

　「大丈夫よっ！！・・・・理論上は・・」

　「・・・・・・・・」

　　そして不気味な光でぶるぶると震えだす機械人形。　　

　　今世紀最大にして最後のピンチなのかっ！！

　　まて次号！！

　　なんつって。　　

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