おそらく歴史上類を見ない恐怖、それこそが・・・慣れない慣れたモノ

変化する志士達

　　昨日は予告通り帰って来なかった父が朝ちゃっかり居て、ひもじい腹減ったと駄々をこねるのを軽く

　無視しながらさささと登校する事にした。何故ならぼーっとしていたかと思うと、時折にんまりと一人

　でしていたから。まだぎりぎり３０代だとは言え、いい歳のおっさんがやっているととても不気味なの

　です。おそらく色ボケでしょう。

　「おーい、あれだあれ。朝はあれ」

　　といつものように呟く父の声を背中に聞きながら靴を履きすたこら家出。多分お茶漬けの事だろう。

　　休日明けの気分は何だか面倒なような、それでいて休んで気力充実なような、そんな変な気分にさせ

　てくれる。家の塀の上をとことこ歩く野良鶏も眠そうに瞼を擦っている。

　　ブルーマンデーってやつかな。これを略してブルマンと呼ぶと朝と言う事もあって、中々面倒な破目

　に陥りそうな気もしないでもなく、喫茶店が繁盛するだろうと思わないでもない。

　　そんな春の朝は心地よい暖かさと眠気と共に尚更妙な感じがするものです。

　「ふわわわわあ～い」

　「おっ、みつふさン。今日も盛大な欠伸だねえ、名古屋のシャチホコも真っ青だよ」

　「ん、赤司？何で居るんだこんな所にこんな早く」

　　今日は今の所全身花粉だらけになり、近所のおじさんのカツラで滑って転んだくらいで済んでいるか

　らいつもよりまだ早いはず。

　「ふっふっふ、甘いなあみつふさン。早朝駅伝くらい今の日本では日常茶飯事だろう。皆毎週やってる

　ぞ。それを俺がやったとして、一体何が不思議なのかね？」

　　長袖短パンにタスキ代わりの鍵盤ハーモニカと言った姿の赤司は、ぷっぷらぷっぷら♪恥ずかしげも

　無く堂々と吹かしている。

　「じゃあ、誰とやってるんだ？」

　「ん、誰と？・・・・・・とは？」

　「いやいや、駅伝って言うのは一人でやれないだろ？」

　「ああ、その事か。まったくみつふさン、当たり前の事を聞きすぎてとっさに解らなかったよ。勿論、

　君の父上に決まっているじゃあないか」

　　そして赤司の指差す方を見ると、数十メートル先の我が家の前に柔軟体操をしながらステップを踏み、

　これ以上無いくらいにやるき満載な我が父の姿が。勿論半袖長ズボンと言った赤司と同じ格好で。

　「ああ、だから僕の通学路で出会った訳かあ・・・」

　「うむ、そう言う事だよみつふさン。それでは俺は爽やかな朝を満喫するから、また学校で」

　　赤司はアデューと勿論巻き舌で言い残し、我が父の下へ鍵盤ハーモニカを手渡しに行ったのです。僕

　に出来る事と言えば、今見た事を忘れて無かった事にするくらいでした。あらあらかしこ。

　　それにしても、あらあらって何だろう？？

　「まあ、放っておくかな」

　　あまり気にすると遅刻してしまうので、それも爽やかに流して学校へ向かう事にする。

　　人数は果たして二人なのか、そして何処がゴールで何時まで走り続けるのか等の疑問を心中に押し込

　めたままで。

　「ふんふんふ～ん」

　　鼻歌を歌いながら、落ちて来る鳥の糞を避けて行く。ここら辺は慣れたもんだ、ただ上だけに気を取

　られ過ぎると下にある犬のとかを踏んでしまう事があるので気が抜けない。いくらベテランでも、この

　上下の波状攻撃を避けるのは至難の技なのだ。

　「ふいーーっ」

　　額の汗を拭う、今日も何とか無事に突破したぞ。我に天運あり！

　「何をしているの？」

　　その時聴こえてきたのは、聞きなれた声で聞きなれない口調。あまりにも不思議な感覚に昼間に幽霊

　と遭遇したような、そんな気分にぼんやりとなる。

　「ふけーーーー」

　「ん、どうかしたか？じゃなくて、どうかしました？」

　　何だか背中をむず痒いものが走るような独特の感じを味わう。本能がそちらを見るなと告げている。

　「ふけけ～～～～」

　「こ、このッ！って違う違う、どうかしたの？」

　　回り込む気配がしたので慌てて蟹歩きでその場から逃亡を試みる。めぐタンので鍛えられた成果を今

　こそ発揮する時だ！さあ奮え、聖なる使徒達よ！天命は我らが上に！！

　「・・・・逃がすか！いや、逃がしません事よ。オホホホホ」

　　何だか薄々感ずいてるものの、恐ろしい何か、人生最大の山場が押し寄せてくる気がする。決して振

　り返るまい。

　　登校者がこの時間はまだ少ないのだけが救いだと思う。

　　ああ、安息の地（校舎）まであと少し・・・・。でも僕の場合は

　「待て！！」

　　後一歩と言うラインで肩を掴まれ捕獲される。解っていたけど止められない、なんのこっちゃ。

　　そして無理矢理顔を向けさせられたその先には・・・、あああ・・・。　
　

BACK・ EXIT・ NEXT