そして歩く二人

日差しと共にゆるりと舞い降りて

　　温められた空気は軽い。もう少しすれば、蝉の鳴き声も聴こえてきそうなそんな日差しの中。ゆるゆ

　ると歩く道はまたいつもよりも仄かに趣き深い。

　　桜、梅、椿。様々な色彩を通り抜けていく。街中に敢えて木を植えると言うのも、中々いい考えを実

　行したものだと思う。電柱、ポスト、歩道橋。そういったものにも不思議にマッチする。

　　自然の外にあるからこそ、尚更際立つのかも知れない。

　　花粉も舞い散り始めているのだろう。マスクをした人も時折目に付く。

　　僕ももう少しすれば、いつも通り歩くだけで花粉塗れになるのだろう。そして諸悪の根源花粉星人め、

　と花粉症の奴らから苛められるに違い無い・・・・。

　　気分台無し。

　「何にしても、駅まで遠いからなあ・・・」

　　自転車を使えば必ずバナナの皮（狗引の食べ散らかし）に滑ってこけるから、まずそう言った文明の

　利器は使えない。哀しい運命なのです。

　「まあ、真弓は知ってるからどこかで時間潰してのんびり待っているのだろうど」

　　気の知れた仲って言うのはこういう時に便利なのだ。

　　もけらもけらと鳴く鶯の声も心地いい。
　

　

　　駅に近付くと、真弓の姿が見えた。結構背が高いからすぐ解るのですよ。

　「いつも通り遅いな、木城」

　「ああ、いつも通り不意の災難だらけだからな」

　　スカートを翻すその姿は雑誌に出ててもおかしくないと思う。ちなみに遊びに行く時はスカートが多

　い。自分ではいているのに恥ずかしそうにスカートの裾等を気にするのは可愛いと思う。本人に言った

　ら命が無いだろうけども。

　「ん、何だか顔色が蒼いけど大丈夫か？」

　「くわばらくわばら。平気ですともさ」

　「なら良いけどな」

　「今日は何処行くのかね？」

　「映画だ」

　「ああ、観たいって言ってたやつかあ」

　「そう、それ」

　　真弓と一緒に並んで歩くと不幸もそんなに襲って来ない気がする。ラッキーガールなのかもね、不幸

　も引っ叩き倒す気もするし。

　「む・・・・何か良からぬ事を考えているだろう、木城」

　「いえいえ、滅相もござりませぬ」

　　勘が鋭いので、下手な事は考えないのが賢明なのだ。くわがたくわがたくわばたけ。

　「それより、今日のメンバーは？」

　「ん・・・・、んーその。ふ、二人だ」

　「ふーん、まあ歩いてれば何処からか誰かしら来るしな。どーせ」

　「そ、そうだ。だからわざわざ呼ばなくても良いのだな、うん」

　「何でどもってるんだ？？」

　「ど、どもってなんか。い、いつも、いつも通りだぞ」

　　まあ、お年頃の照れ屋さんだからねえ。

　　真弓とも結構二人で遊びに行ったりしてる。俺にとって気軽に話せるオアシスなのだ。それに二人で

　出かけても、何処かで必ず誰かしらに会ってしまう。最近、自分に変人磁力でもあるのかなと真剣に悩

　んだりもします。僕もあるけば変人に当たる。

　「良い天気で良かったな」

　「真弓は晴れ女だからなあ」

　「そうかな？」

　「ああ、そうだよ。遠足だって何だって真弓が居た時に雨なんて降ったことないだろ～」

　「はは、出かける時はまあ晴れた方が良いじゃないか。それとも、晴れ女は・・・い、嫌か？」

　「うんにゃ、出かける時は晴れた方が良い。女の子も薄着になるし」

　「お、お前と言う奴は・・・」

　「ひいっ、冗談であります」

　　口を滑らすと命も儚いのですよ。

　　皆様もお気をつけを、人間口で失敗します。アーメンなむあみだぶつ。

　　ともあれ必至にご機嫌を直していただき、無事に映画館まで辿り着いたのでございます。

　　何事もなく観れれば良いのですが。　
　

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