こんな日もあるのです

天才も天災、忘れた頃にやってくる

　「何だか久しぶりな気がするなあ。いや何がって訳じゃなくて何となく」

　　今日は天井から落ちて来た鼠に起こされたので少し気分が良いのでした。いつもはムカデとか蛇だか

　ら。どちらかと言えば害虫っぽい鼠も今は些細な幸せに感じます。

　「ふああはああああ」

　　欠伸をしながらむくりと起き上がり、さささっと布団を畳む。そして

　「猫でも飼おうかな・・・・」

　　と、服にしがみ付いたままの鼠を見ながらそう思った。

　　朝陽がきらきらと浮かび上がり、屋根達が静かに反射している。

　「ふふふふふふふ・・・・・」

　　休日の朝は良いなあ・・・・・これが朝６時でなければ・・・。

　「ふんふんふ～ん♪おっ、相変わらず休日だけは早起きだな褌総」

　　のんきに階段を下りて行くと、いつにも増して陽気な父がハミングしながら軽快なステップで一人社

　交ダンスに勤しんでいた。

　「父さん、今日は中々ステップがキレてるんじゃない？」

　「おう、解るか褌総よ。お前もステップの良し悪しが解る歳になったのか・・・・早いものだなあ」

　　すろーすろーくいっく、すろーすろーくいっく。

　「今日は何？またゴミ拾い？」

　「ゴミ拾いとは失礼な！せめて回収作業γFと言いなさい。まったく最近の若いもんは」

　　ぷんすかとステップが荒れる父。

　「でもな、今日は違うぞ。父さんは青春を謳歌して来るのだよ、フフフ」

　　そう言えば、スーツもいつもより上等なような・・・・・主にボタンだけが。

　「青春ねえ・・・・まあ、何でも良いけど晩御飯までには戻って来なさいよ、父さん」

　「うーん、どうだかなあ。あれかも知れんぞ、あれあれ。良く将来若気の至りとかって思い出すあれだ。

　あれかも知れん」

　「もしかして、朝帰り？」

　「ああ、そうそうそれそれ。それだそれ」

　「まあ、何でもいいや。じゃあご飯は一人で食うよ」

　「おお、そうしなさい。たまには一人暮らし気分に襲われるのも良いものだ。ではな息子よ」

　「ほーい」　

　　そのまま父さんは華麗なステップでも無く、割と無様に回転を繰り返しながら過ぎ去って行きました。

　「回転はまだまだだよな、父さんは。僕はどうするかねえ」

　　特に予定があるでも無い僕は、のんびりと取りあえずご飯にしました。

　「ん、電話だ」

　　後片付けをしていると、不意にもけらもけらと電話が鳴りました。

　「あ、木城か？私だ、坂下」

　「坂下？うーん・・・・・ああ、真弓かあ。そう言えば坂下さんでもあったっけ」

　「人の名字を忘れるとは何て奴だ・・・。まあいい、今暇か？」

　「ん、ああ暇すぎて暇だけで言えば忙しいくらいだ」

　「良く解らないが、なら出て来ないか？」

　「ん、別にかまへんかまへんけど」

　「なら、駅前に来てくれ」

　「解った」

　　そう返事すると何だか慌しく電話を切った真弓。まあ、こいつも結構な照れ屋さんだし。そう言えば

　真弓と遊びに行くのも久しぶりだなあ。

　　などともげ～っと考えながら、あたふたと外行きの服に着替える。

　　そして、服に首を引っかけながらも５分間もそもそと格闘したりもしながら、何とか鍵を閉めて外へ

　出る。春麗らかな日差しは空気をほんわりと温めて、吸い込むと柔らかなモノが体中に広がる感じがし

　た。

　「良い休みになると良いなあ」

　　グッと天に突き出す拳は熱く燃えるように見えたり見えなかったり、やっぱりそんな事あるかよって

　思ったり。

　「それに少しお笑い度とはっちゃけ度が低めだったかも知れないな。ブランクあるし」

　　などと謎なぼやきにも磨きがかかる、そんな朝でした。　　　　　　　
　

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