人には温もりが必要なのです

トキメイテ色ボケ

　「今日はいよいよ密室体験の日だな、みつふさン」

　　朝から赤司の声聞くのもほどよい無常を感じる今日この頃。朝はもっと暖かい色気のある声から始ま

　って欲しいねえ。

　「うーん、でも柊先生の事だから二人きりには耐えられない事だろうて」

　「ううむ、然らば母御も居た方が長らく一緒にはいられる訳か・・・・。これは由々しき一大事」

　「それにしても赤司は進路どうすんだ？」

　　これが一番聞きたい質問だった。ある意味怖いもの聞きたさ。僕の予想では核ミサイルの自然に優し

　い核抜きと言いそうだと思っている。他には夢のセクハラ部長とか・・・うーん、ろくでもない事甚だ

　しい。

　「俺か・・・勿論三年だよ、みつふさン」

　「はっ？？？？？」

　「何を言ってるんだ。高校二年の次は三年だろうが、まったくボケるのは早いぞ若人よ」

　「・・・・・☆＞○・・・・■＜▽・・・・・・」

　「おーい、どうしたみつふさン」

　　僕は黙って静かに去った。本の少しでもこいつが二年先とは言え、将来とか未来とかの事を考えると

　思った自分が物凄く憐れに思えて、涙も糸を引くようにぽたぽたと頬を伝わったのだった。

　　赤司は気にした風も無く、例のように渋い頷き方と神妙な面持を練習し始めた。年上の女性には真面

　目とかわいさが肝心だよとは彼の持論である。ただ彼は人それぞれと言う言葉を忘れている、合掌。

　そんなこんなで半日が過ぎ。僕も所々かすり傷等を付けつつも、打撲が無かったから今日はついてる

　と小さな幸せを噛み締めたのでした。

　　ああ、御天とさんも真上で笑ってるよ。

　「うふふふ、うふふふふふふ」

　　周りの奇異な視線なんて気にしない。所詮僕はアウトローなのさ。

　「うふふ、くふふふふふ。褌総くん、相変わらず素敵な微笑み。やはり私と笑顔も共通点が多いのね・

　・・・やっぱりこれは黒い糸のお導きだわ・・・・ああ、銀河も祝福してるわ。ねえ、見えない？降り

　注ぐ紫外線と可視光線の微妙な混ざり具合が・・・・。いえ、見えるはずよ。貴方なら・・・・・くふ、

　くふふふふふふっ」

　　いつも通りじりじりと蟹歩きな僕。ここまでアウトローにはなりたくありませぬ。

　　統計から考えるとめぐタンは後最小２７分はうっとりとされておるはず。速度と時間における距離の

　関係から言っても、このままじわじわ行けば大丈夫なはずだ。

　　より巨大な不幸の前では些細な不幸はかき消されてしまう法則が僕の味方さ♪

　「うんせ、うんせ」

　　そのまま蟹歩きで教室を横切り出て行く僕。良いのさ・・・この教室の女の子の好感度は諦めている

　のさ・・・・あはは、あははははは・・・。

　　そして胸に箒と書いた紙を貼り付け、掃除用具入れに無理矢理入る。他の掃除用具からの無言の嫌気

　も何のその。

　　３０分程待って出ると。

　「おや、こんな所に良い箒が。きちんと片付けないと可哀想ではありませんか」

　　諸草先生（４２歳独身未だに平教員）が綺麗に仕舞ってくれた。いい先生だなあ・・。

　「うーん、何処だ褌総の奴。待っていろと言ったのに・・・・」

　　廊下で首振る中年男が一人。そしてそれを見送る箒が一本。

　「困ったなあ・・・三者面談だと言うから午後の予定を全てキャンセルしてまで来たと言うのに。ほら

　あれだあれ、こう言う時はあれって言うんだ・・ほら」

　「待ちぼうけ？」

　「おう、それだそれ。って何やっているんだ褌総？」

　　気が付くと箒と書いた紙が足元に落ちてました。最近のテープは根性が無いですねえ。

　「だから待ってたんだよ。決まってるじゃないか」

　「ああ、なるほど。確かにいい待合場所だ・・・・通行の邪魔にもならないしなあ。まあ、ほらなんだ。

　じゃあ入ろうか」

　　父さんと一緒に教室に入る。

　「始めまして、担任の柊です。よろしくお願い致します。どうぞおかけ下さいませ」

　　と黒板に書かれた文字を眺めながら、一回スクワットしてから二人で座る。椅子が一つしか無かった

　のだ。

　「いつも褌総がお世話になっております」

　　一礼する父。それに応える柊先生。

　　どんな面談になるだろうと不安な思いも何のその。柊先生は見事なボディランゲージでご自分の意志

　と意見をそつなく伝えてくるではありませんか。

　「これが２４年の成果よ。先生にお任せね♪」

　　と柊先生は書いて下さいました。恥ずかしがり屋さんなので、いつも以上に顔も赤かったのですが、

　精一杯やってくれているその姿に僕も少し感動を覚えたのでした。

　　父さんも満足そうに微笑んでおりました。

　　最後に三人で

　「再見」

　　と日本語で合唱して男二人は教室を出たのでした。

　　何だか先生も最後は緊張が解けて、楽しそうにしてくれたのがとても嬉しかった。そう日記に書こう

　と誓ったものです。

　　それから次の次の順番の高見さんとにっこり笑いあって、親御さんが来るまでしばし談笑してから帰

　りました。可愛かったなあ、輝いてるね高見さん。

　「うーん、母さんとも張り合える美人が多いなここは。父さんも入るかな」

　　等とある意味本気で悩む父。

　　そして最後に

　「父さん、再婚しようと思う」

　　等と真面目に言われ、道々突っ込み続けた僕でした。まあ、そろそろ母さんも許してくれるのかな等

　とは少し思ったけれども。一応苦労している父親の姿見て育ってるから、本気で父の幸せも願っている

　のですよ。母さんもきっとそう言うと思う。

　　少しセンチメンタルな帰途でした。しかし本気なのかなあ・・・我が父ながらその辺はさっぱり解ら

　ない。解るのは母だけだったそうだから。

　　まあ、ついてないのは僕だけで充分でしょう。溜息交じりに呟きながら、緩やかになった日の光は少

　しだけ暖かな気持ちにしてくれた。　
　

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