ちょっこり赤司

密室暗闇体験㌃①

　　わらわらと退場する人達を待って、のんきに映画館へと入り込む。お決まりのポップコーンは忘れ無

　い。でも何でポップコーンなんだろう。キャラメルコーンでも良いのになあ。

　「ほらほら、木城さっさと入るぞ」

　　真弓は待ちきれないらしくスタコラと僕を引っ張って行く。

　　映画名はメジョリーンに鼻束を。

　　パントマイマーを目指すぴちぴちの１９歳の女の子マニア、メジョリーン（仮）が苦悶奮闘しながら

　も何故かナルシスト魂に目覚め。世界に三人居るという自分と同じ顔をもつ人を探しに旅立つお話しで、

　所謂恋愛モノの王道である。

　　俳優陣に有名綺麗所を揃えたと言うのがウリで、前評判もかなり高かった。

　　真弓は恋愛モノに目が無いのであります。

　「はあ～、この映画が始まる前の間って言うのもドキドキして良いんだ」

　　ご満悦な様子で、にんまりと眺めております。

　　僕は僕で早速ポップコーンにパク付くのであります。いやはや、鼻より団子と。いやはや何とも、失

　礼致しました。

　「まったく、お前は・・・・映画がメインなんだぞ。映画館でポップコーン館ではないんだからな」

　　その度に真弓からお小言をいただくのであります。

　　懲りない僕も僕だけれども、真弓も真弓で辛抱強いなあといつも思いまする。

　「あ、始まるぞ。静かにな」

　「へーい」

　「返事は歯切れ良く、へいらっしゃいだ」

　「へいらっしゃい」

　「よろしい」

　　例の独特の信号音と共に映写幕にカタカタと数字が回り始める。　

　　ちなみに僕はこの瞬間が一番ドキドキして好きだ。

　「ほけ～～♪」
　

　

　「やっぱりあのダンスシーンが最高だったな。ちょっと私はステップに失敗したけど」

　「いやいや、中々のステップだったよ」

　　ダンスシーンでは皆が一緒に踊るので、映画館の中がちょっと五月蝿いけども。あれが映画の醍醐味

　なのだ。

　「そうか。何かそう言われると照れるな・・・。でも最後の木城のもけらもけらも中々良かったぞ。拍

　手喝采だったじゃないか」

　「まあ、もけらもけらはちょっと自信あるからな。さて映画観てお腹も空いたし食いまくろうぜ」

　「ああ、食べよう」

　　帰りに喫茶店等に寄って映画の話をするのも良いよね。食も進みます。

　　丁度キャンペーン中の、お子供様ランチを頼み。二人して楽しく食べる。

　「しかしメジョリーン（仮）が実はメジョリーンだった何て吃驚したよな。俺はてっきりメジョリーン

　（仮）のままだと思ってたのに」

　「そこが良いんだよ。解ってないなあ、木城」

　　こんな感じでちょっとした映画討論会になるのも、珍しい光景でも無くて。あっと言う間に時間も過

　ぎるのです。

　「でも今日は珍しく誰にも会わなかったなあ」

　「そ、そうだな。わ、私だけだと、つ、詰まらなかったか？」

　「うんにゃ、面白かったよ。それに元々二人だけだったんだから」

　「そ、それなら、よ、良かった」

　　紅茶のカップを持った真弓が真っ赤になりながらしどろもどろしている。うんうん、良い子だねえ。

　「木城・・・また」

　「な、何を仰いますやら。さあ、食べ終えたし出ましょう出ましょう」

　　レシートを取ってさっさとレジへ逃げる僕。これこそ生き残る英知！

　「まったくいつもいつも、何処か怪しいんだお前は」

　　真弓には油断出来ませぬのであります。
　

　「いくらだった？」

　「ん、別に良いって」

　　喫茶店を出ると麗らかな春の午後と言う感じでありました。

　「そんな訳にいくか。きちんとワリカンで」

　「良いって。誘ってくれた御礼だよ」

　「あ・・・・・」

　　ちょっと嬉しそうに照れなさる真弓。表情とかくるくる変わる女の子は可愛いねい。

　「おっ、お二人さん今日も仲睦まじい事で」

　　そちらを向くと赤司がムーンウォークをしつつ、蛸のように身体をくねくねと動かしていた。今流行

　りの蛸ダンスだろうて。

　「な、仲睦まじいだなんて。そ、そんな・・・・、だからそれは・・・・、そんなじゃなくて・・・・、

　私はそうでもあっちが・・・、いや、ち、違う、違うからな」

　　真弓もいつも通りいじいじモードに入ってしまった。ケンナッキーおじさんに向かって照れたり、ど

　もったりしている。

　「しかし、やはり現れたか赤司・・・・」

　「うむ、出番が欲しかったからな」

　「なるほど」

　「うむ、俺の存在が少しでも薄れる事は我慢ならんのだよ、みつふさン。じゃあ気が済んだから帰る」

　「ん、もう帰るのか？赤司」

　「ああ、これから深呼吸をしたり、昼寝をしたり、鳩に豆鉄砲喰らわしたり、税金の無駄遣い調査をし

　てテレビ局に密報したりとスケジュールが詰まっているのだよ。残念ながら遊んでいる時間は後、１０

　時間しか無い。まあ、二人で仲良くな」

　「ああ、またな～」

　　そのまま赤司は通りがかりの色っぽいおねーさまに誘われるように去って行った。あれだと半分スト

　ーカーだろう、お気の毒に。

　「違うからなッ！」

　　真弓も叫んでいた。

　　今日は珍しく、真弓と二人きりな日らしい。　
　

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