ＨＲですよお姉さん

ああ清廉なる至上の喜びよ

　　程なくして廊下をコツコツと歩く音がした。

　　この音は紛れも無くハイヒール系。

　　身体を横に倒して前を見ると、赤司が喜びに満ち溢れているのが見えた。それはもうガッツポーズで

　涙を流す勢いだ。

　　しかしその音と共に現れた人影は優雅に通り過ぎて行ってしまった。

　「Ｏｈ！シィィィィットあんどガッデエエエエエム！！フェイントかよッ！」

　　赤司が大げさなポーズで悔しがる。

　　幾人かの緊張した面持ちの方々はそのヴォイスにビクッとなる。横の娘を見ると顔面蒼白で如何にも

　もう手の尽くしようも・・ってな顔であうあう悶えていた。

　　ご愁傷様。これから一年は常にこれだよ、お嬢さん。

　　あまりにも不憫だったので、肩を優しく叩いて極上の笑顔で

　「大丈夫？」

　「えっ、あっはい。大丈夫。ちょっと吃驚して・・・・。私ってちょっと気が弱いって言うか、ああっ

　また不幸よ。不幸が襲ってくるのよ。私っていつもそうなのよ～」

　　予想に反しておいおい泣き始めてしまった。

　　他の生徒がなんだなんだと奇異な視線を向けてくる。女生徒の方々からは冷たい視線を感じる。

　　嗚呼、僕が泣きたいよ。また不幸がならまだいいさ。僕なんか常時不幸の種がそこかしらに転がってい

　るのさ。何時芽を出すか解ったもんじゃない。この理不尽さが貴様に解るかいっ！！

　「えーと、まあこれで涙を拭いて・・」

　「ありがとうありがとう」

　　大げさにハンカチを受け取って、また奇異と冷たい視線が・・・。何をやっても駄目なのね・・。

　　ちなみに８８のＣカップですと場違いな言葉と共に名前を教えてもらった。でもちょっと嬉しかった。

　　近藤　恩（コンドウ　メグミ）と仰るらしい。何でこういうちょっと変な方々が僕の周りには多いの

　だろう・・・・

　「みつふさン、ナイスゲット！！」

　　もう一人の変人は放っといて。何とか近藤さんをあやす。

　「めぐタンと呼んで下さい」

　　ハンカチは明日お返ししますの狭間に、呼ばないと呪ってやると言う言葉がぼそりと聞こえたので是

　非も無く従う事にした。嗚呼、気のせいと言ってくれ・・・。

　　そうこうしてる間にまたコツコツと聞こえた。

　　それから戸の前に止まり。

　　一呼吸置いてからゆっくりと戸が開けられた。

　「おお、苦節１６年にして念願適ったり！！」

　　赤司が騒ぎ出す。

　　先生はつかつかと教壇に立ち。

　「静！！！」

　　と一言大声で叫んだ。それから

　「私は2-Bを担当する事になった。柊　瑞希（ヒイラギ　ミズキ）です、よろしくね。ウフ♪」

　　と黒板に書いて。

　「自己紹介！！」

　　と左端の列を指差して、さっさとパイプ椅子を出して座った。

　　こうして恙無く自己紹介も終えて、危なげなく初めての授業が終わった・・・。

　　いや、美人の先生なんだけどね・・・かなり。美術品みたいな整った顔立ちで・・・。何でも２４にな

　った今でも彼氏が出来なくて悩んでるらしい。って生徒に相談するなよ。

　　クラスメイトの方々はがんばれーと声援を送っていましたが。まあ、待望の美人な先生で良かったと思

　おう・・・。別に小学校みたいにずっとこの先生な訳でも無いし。

　　先生が黒板に書くには異常なあがり症で普段はとても普通に喋れないらしい。でも、筆談で会話って

　何処の国だ此処は・・・？？

　　ご多分に漏れず赤司は常時ご機嫌だった。彼に言わせると、２４くらいになってやっと真の魅力が開

　花されるらしい。よって彼の守備範囲は高めである。

　「よろしく。・・・始業式」

　　締めくくりにそれだけ言って柊先生は出て行った。

　　そして皆で体育館へ向かうのである。この学校は何故か最後に始業式をしてそのまま帰るのだよ。

　　何代目かの校長が

　「始業式だって最後にやっても良いじゃない！！」

　　と主張したからだそうだけど。ちなみその校長は朝からお腹の調子が良くなかったとか何とか。

　　体育館へも行かずに放送室からあいさつして済ましてしまおう、と言う案も出たらしいがそれはやり

　すぎと却下されたらしい。いや、あくまでも聞いた噂だけども。先生に聞いても大人の事情としか教え

　てくれないし。

　　これで県立ってのがどうも信じられないのは僕だけだろうか。

　　ともあれ雪崩れるように体育館へ。赤司は常時柊先生の側をキープしていた。

　　そしてめぐタンは僕の左斜め後ろに・・・・・。

BACK・ EXIT・ NEXT