期待するだろ男なら

降り積もる塵は尾根の如く

　　掲示板の前に張り出されたクラス表を一人眺める。

　　高見さんとは先ほど別れた。職員室に用があるらしい。そりゃ、転校一日目だもんなあ。

　　クラス表をＡから順に眺めていく。

　　でも何でクラスってＡＢＣなんかな。考えるのが面倒だからだろうな。

　「あーとＢ組かあ・・・。血液型と同じだなあ」

　「おう、お久し」

　「うわっ！！っととと」

　　いきなり後ろからタックルされた。

　　踏ん張ったが危うく倒れそうだった。知り合い数知れずとは言え、こんな事をする奴は一人しかいな

　い。と言うより二人も居たら身が持たんっちゅーねん！！しかも昨日会ったし。

　「赤司ッ！！毎回毎回アホか己はッ！」

　「ふははは、タックルされるだけ光栄と思えい」

　　朝っぱらからふんぞり返ってるこの輩は、藤狩　赤司（ふじかり　あかし）。自他共に認める変な奴

　だ。そう、それ以上それ以外に言いようが無い・・・変な奴だ。変な奴なんだッ！！

　「おいおい、みつふさンよう。何朝っぱらから必死な顔してんだよう？ん、そうか。あれだ、あれだな

　未成年の主張ってやつを狙ってるな貴様。色気好きやがってこのやろふ」

　「だーっは！止めんかい、戯け者」

　　名前の後にンを付けるのがマイブームとかいうこの男は地味に面白いから始末に悪い。何しろ、将来

　の夢が美人のおねーさんのお尻を撫でて、相変わらずいい尻してるねえって言う事だってンだから。ま

　あ僕もそりゃあちょっとは・・・とか思ったり思わなかったりもして・・・。

　　まあ、ともかくこいつだけはきっぱり変人と言い切れる生涯唯一の男だ。ある意味貴重、でもレアは付

　かない、多分。

　「おお。また同じクラスじゃあないかい、心の友よ。共に青き春を謳歌しようじゃないか」

　「何かちょっと気色の悪い言い方だな」

　「気のせいだよ、友よ」

　「ともかくまたお前も一緒かあ・・・。何か飽きてきたな」

　「おお、何たる言い草。幼少よりの付き合いだと言うのに、俺は嘆かわしいぞコンチキショウ！！まあ

　俺らはセットにしといた方が楽だと、我らが担任より語り継がれてるとはもっぱらの噂だぞ」

　「真顔で言うなよ・・・」

　　思えばこんな奴と十数年来の付き合いって言うのが一番ついてないんじゃないのか。もしやこいつこ

　そ全ての元凶。要約して言えば疫病神かッ！！！

　「何だよ、みつふさンよう。また変な顔しやがって。まあいいや、それよりもそろそろ教室へレッツビ

　ギンしようぜ」

　　そう言って歯がキラリ。皆さんよ、努々油断するなかれ。世の中広いから嘘のような本当な奴もいる

　んだよ。ほうら、良く見て御覧。そこにもここにもあそこにも、ついでに貴方の側にフフフ。

　「まったく、またぼんやり男になりやがって。遅れるぜ、みつふさン」

　「あ、もうこんな時間かよ」

　　言われて時計を見てみると、いつのまにやら8:15。そういや結構話し込んだような。早く家を出て、

　色々良かったなあ。

　　はよせなはよせなと急かす赤司に連れられて階段を上る。

　　二年は二階だ。何か嬉しいぜ。後一年で文字通り上り詰める訳だ。

　「この一瞬だけは学校も楽しいねえ」

　　赤司が妙にハイな・・っていつも通りか・・・な感じで２-Ｂの戸を開ける。

　　むわっと埃っぽいような篭った空気が鼻腔をくすぐる、これも文字通り。

　「うえっくしぇい！！」

　「おいおい、初っ端から風邪引きかあ・・。俺にうつすなよ。俺は美女より発散されたウイルスしか受

　け付けたくないのよ」

　「赤司よ・・・お前にはこの繊細なくしゃみの訳等解るまい」

　　この友人Ａはそんな言葉を無視して、いつもの一番前の席に座る。しかも教壇にぎりぎりまで近づけてい

　る。何でも美人の先生をより楽しく有意義に見るためらしい。

　　主に外れで悔しがってる姿はもはや知っている人間には新年度の名物になっている。

　　確かにここにも数人麗しき先生方がおられるが、主におっちゃんだぞ。

　「赤司よ・・・・」

　　僕は諭してあげようと思ったが止めて置いた。人間ささやかな愉しみの為に生きているのだから。ふ

　と見ると志を同じく涙ぐんでいる見慣れた顔が数名。おお、戦友よ・・・・・。

　　そして僕もいつもの後ろから二番目でなおかつ背の高い奴の後ろに座る。フフ、この位置こそ至上の

　位置よ・・・。

　　なんやかんやでチャイムが鳴り響く。

　　美人の先生がくれば良いなあ・・・。

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