本当の幸せは一瞬だからこそ

今だけは幸せの鐘を・・・

　　教会の雰囲気にはそれでも変人を抑える効果があるのか、それなりに荘厳な気配をかもし出している。

　そして僕は思う。椅子があるっていいね。

　　父さんの事だからとてもとても口に出来ない程の感じかと思っていたけど、予想に反してシンプルな

　感じでした。おそらく柊先生が必至に人間の最後の尊厳を死守したのでしょう。

　　しかし、赤司のスーツ姿はなまじ似合っているだけに、見る度に吹き出しそうになるのが辛いです。

　　そして、その静寂を取り込んでしまうように、静かに柊先生がバージンロードを歩いて父の元へと歩

　いて行きます。ゆっくりゆっくりと。

　　ドレスのフォルムを見ても、とても綺麗なのが解りました。女の子達もうっとりと見入っております。

　女の子の方がこういうの好きですよね。男共は・・・・いつも通りのようです。大声こそ出さないもの

　の、赤司は悔しそうに地団駄踏んでますし、溝口は色々と情報収集を、その他大勢はその他大勢なりに

　適当に。小器用な奴らだと少し感心致しました。

　　それにバージンロード何て凄い名称ですよねえ。これは訳してはいけない言葉だと心に焼き付けまし

　た。

　「病める時も健やかなる時も・・・・・」

　　そして神父さんの低く染み渡るような優しい声が響いていきます。もう泣いている生徒もいます。赤

　司もその生徒達とは別の意味で泣いておりました。正に赤を司る男です。

　　そんなこんなもどうと言う事も無く、スムーズに式は進行して行きます。

　「それでは指輪の交換を」

　　これまたセンスの良い指輪でした。石はダイヤかな、形に割と拘る父としてはおそらく給料三ヶ月分

　でしょう。勿論柊先生の三ヶ月分ですとも、何せ父はサラリーを頂いておりませんから。しかし、どう

　やってどんな間違いで父は儲かっているのやら。父のお客となった方には心から同情致しまする。

　　父さんが柊先生の細長い指にリングを通していきます。そして同時に柊先生も。

　「それでは誓いの口付けを・・・・」

　　そして静かに触れ合う唇。この行為も今はただ神聖なものに感じます。しかし我が父のキスシーンを

　見る羽目になってしまうとは。世の中訳が解らない事も起きるものですねえ。

　　母はどう思っているのだろう・・・・。多分妬いてしまうとは思うけど、それでも喜んでいてくれる

　のかも。僕の不幸病が治まってきたように感じるのも、母が喜んでいてくれる証なのかも知れないし。

　　柊先生が来てからも、母の写真はちゃんといつもの所に変わらず置いてあるし。柊先生も気にしてな

　いみたいだし、上手くいっているのだと思う。

　　執拗に柊先生と呼ばせるのに拘るのは、僕の母さんは母さん一人だと気を使ってくれているのかも知

　れない。でも、あの父の事だから都合良く考え無い方が良いのですが・・・・ふふふ。

　　そして来た時と同じように静かに、でもしっかりとした足取りで。そして隣には父を従えて、柊先生

　が太陽の下へ歩み出て行きます。

　　僕も父もキリスト教徒ではありませんが、それでもこういう時は神も拘らず祝福してくれると思いま

　す。神の愛は無限で平等だそうですから。人の決めた戒律なんて、何教徒かなんて、神様は気にもしな

　いのでしょう、本当は。

　　そして出てきた二人を僕も精一杯祝福しました。

　　皆とても幸せそうな笑顔でした。

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