心も空と・・・

空を開けると

　　蒼に溶け込んでいくような気がした。それほどに蒼い、青い、澄み切った空だった。

　「真弓・・・・？」

　　その中に佇む女の子が一人。背の割に何だか酷く小さく見えた。

　　それは空が大きかったから？・・・それとも。

　「一体どうしたんだよ、真弓・・・・」

　　屋上に踏み出す。錯覚ももう消えていた。それはほんの一瞬の煌き、だからこそ心に染み渡るのかも

　知れない。その扉を開けた時にふわっと目を掠める景色が。

　「ん、何でも無いんだ・・・。本当に何でも無いんだ、木城」

　　そこに居るのは僕が前から知っている方の真弓。

　「何でも無いわけないだろ」

　「うん・・・・そうかも知れない」

　　でもどっちの真弓でも、どの真弓でも。そんな事は関係無いんだ、どれも真弓だし、だったら口調が

　どうとか関係無いから。

　「じゃあ、どうしたんだよ。・・・・何でもいいから言ってみてくれよ」

　「うん・・・・。私は肝心な時にはあがり症で、木城と居る時はこんな喋り方になってしまって。でも

　高見さんが来て、何だかいつの間にか取り返しのつかない事になりそうな気がして・・・・。だから頑

　張って素直になってみたんだ・・・。でも木城はやっぱり変だって言って・・・・。それでも私はこれ

　が私だからって・・・・だから・・・・だから・・・・・。うん、やっぱりよく解らないけど・・・」

　　そう言う真弓はまだ小さく見えたけど、背伸びしている子供みたいに、とてもとても一所懸命なのは

　心にじんと伝わって来た。　とてもとても素直だったから・・・。

　「だから・・・・、私は・・木城の事が・・・・・。うん、きっと私はいつまでも慣れる事が出来なく

　て、木城の前ではこんな可愛気の無い喋り方だと思うし。緊張していつもドキドキするけど、・・・・

　私は木城の一番側に居たい。私は・・・・木城が好きなんだ・・・・。多分、知り合った時くらいから」

　　そうしてゆっくりと俯いていた顔を上げた真弓の表情は、とても凛としていて格好良かった。何の迷

　いも無かったんだ・・・。

　「可愛い方が良いんだろうけど。私は無理矢理可愛くなんて出来ないって解ったから・・・・、でも何

　年か先・・・、木城の前でも緊張しなくなるかも知れないし・・・・。だから、良かったら・・・、私

　の気持ちを・・受け取って欲しい・・」

　「真弓・・・・・・」

　「ごめん、急に色々考えさせたり困らせたりして・・・。でも、お願いだから真面目に考えて欲しい。

　答えはいつでも、どんな答えでも良いから・・・・」

　　そう言うと真弓は来た時と同じように、颯爽と僕の横をすり抜けて、扉の中へと消えて行きました。

　　その扉の閉まる音で、ようやく我に返った僕は・・・・。それでも、しばらくはそこから動けません

　でした。

　　それが困惑の所為なのか、それとも他の理由なのか、それは良く解りませんが・・。

　「真弓・・・・・」

　　ただ、口から出たのは真弓の名前だけでした。

　　もう、他には何も。

　　空と同じように、頭の中もおっきな白い雲に覆われて。確かに蒼く澄み切ってはいたけど、それの向

　こうは見えませんでした。

　　ただ、もくもくもくもくと雲が増えていきました。　

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