向かう先は決めてるんだ

ただ一つ想うものは何？

　　学校前のいつも通る坂に腰を下ろして、彼方に広がる波間を眺める。ここからだと波が海の表面を白

　く泡立っているように思える。何で濃い白色に変わるのだろう。

　　それが今はいつもよりも更に不思議に気になっている。

　　ぼんやりしていると日が落ちて朱に染まるのが見えた。何で朱になるのだろう。昔先生が教えてくれ

　たような気もするけど、どうしても思い出せない。

　　その時はどうでも良かったけど、今は気になって気になって仕方が無い。

　　でもそれに答えてくれる人も居る訳ではなく。学校が終わってからずっとここで眺めていた。それで

　何かが変わる訳でも無いのだけれど。

　「どうしたの、木城くん？こんな所で」

　「あっ、高見さん・・・」

　　そうだった、この坂を利用する生徒が知ってる中に居たんだった。

　「高見さん、今帰り？」

　「うん、いつもだいたいこんな時間だよ」

　「そっか」

　「何かあったの？」

　　そう言って隣にそっと座る高見さん。目がとても心配そうに見えた。

　「うーん、まあそこそこに」

　「そっかあ」

　　そして二人一緒に海をぼんやりと眺める。

　　ゆらゆらゆらゆら揺れている。でも本当は揺れているんじゃ無いんだろう。波もちゃんと方向性があ

　って目的地へ向かって一生懸命向かっているんだろう。揺れているように見えるのは、多分、色んなも

　のとぶつかっているから。行き先は見失ってない。

　「ここの海綺麗だよね」

　「うん、それだけは自慢できる。とても綺麗な海だよ」

　「そうなんだ」

　「うん」

　　そんな風にしてずっと海を眺めていた。

　　波はその間も一所懸命に海に戻されても戻されても、その度にまた陸を目指している。そこに何があ

　るのかは解らないけれど、きっと波達にとっては大事な事なんだろう。

　　多分、完全に解り合える事なんて何一つ無いんだろうけど。それでも知る事は出来るよね、きっと。

　うん、そう思いたい。そしていつか・・・・必ず・・って。

　「くしッ！！」

　「木城くん、大丈夫！？」

　「うーん、やっぱ日が落ちると冷えてくるね。高見さん、そろそろ帰ろっか」

　「うん、風邪をひかない内にね」

　　何だかお互いさっぱりした顔をしていたんだと思う。

　　それが何か、何故かは解らないけれど。これも、それで良いんだ。

　「じゃあ、どっちが先に家に着くか競争ね！」

　「うん、って高見さんの家はもうすぐそこだろッ！」

　「あッ、気付いちゃった？」

　「うわッ、ずるーーーーーー！！」

　　とても晴れやかになった気分で僕も帰宅したのでした。

　　それでどうなるかは解らないけれど、取りあえず僕の心は決まったんだ。

　　うん、決まったんだ。

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