もうどうにでもなれい

取りあえずジェットコースター

　「ん、何だ結局みつふさン達も来たのかね」

　　列の３０ｍ先から赤司がこちらを見ている。

　「ああ、他に乗り物無いからな」

　　そしてそれを見返す僕。

　　その間も続々と後ろに列が出来ていく。本当に何処にこれだけの人がいたのやら。

　「ただいま、一時間待ちとなっておりまーす」

　　リングガールのようなバイトのおねーさんが、手に一時間待ちですと書かれたボードを持って、先程

　から何人もそこら中を歩いている。

　　それはもう１０ｍ感覚くらいな勢いで。しかも赤、白、青、緑、多種様々な衣装で。

　　人件費やコスチューム代を差し引いて、どれほどの利益があるのだろうか。

　　しかして、このジェットコースター地は開地からすでに数十年経っているそうで、父や母の時代もデ

　ートスポットとして大いに活躍したのだそうです。

　「何で誰も疑問に思わなかったのだろう・・・・・」

　「ん、木城くん、何か言った？」

　「ううん、高見さん。何でもないよ」

　「そう？」

　　純真な目をしている高見さんを見ていると、何かを例え賢明にでも疑う事が憚られるのであります。

　「ああ、太陽が眩しいね」

　「良い天気だよね・・・・」

　　なのでそんな風に太陽を仰ぎ見て、青春をイメージしてみたのでした。

　　そうこうしている間にも、列はどんどんどんどん進んで行きます。赤司は何故かムーンウォークで。

　「はっはっは、真の友ならばお互いから決して目を逸らさないものなのだよ、みつふさン」

　　いや、それは多分違うと思う。

　　おねーさんのボードに書かれた時間も、１０分に変わっている。

　「もうすぐ乗れまーす、それまで上を通るコースターに乗る皆様の絶叫と苦悶の顔をつぶさに眺めなが

　らお楽しみ下さーい」

　　にっこり笑顔が心地良い。

　　耳は動かすな、目だけを機能させるのだ！

　「みつふさーン！カボチャ大根サンドと餡蜜のり玉添えとどちらにするかね！？」

　「奢らないぞーーーーー！！」

　　赤司は売り子さんから食料を調達しているらしい。内容は実に赤司好みのものばかりだ。

　　なので当然、僕はその品々は避ける事にする。

　「楽しそうだよね」

　「えっと・・うん、多分ね・・・」

　　高見さんと上を見ると、しこたま何かが怖いと言う事だけが解りました。

　「あの筒になって中が見えないとこに何かがあるんだろうね」

　「うんうん、楽しみだよねー♪」

　　どうにかこうにかコースター本体が見える位置まで辿り着くと、丁度赤司達が乗り込む所でした。勿

　論、相変わらずのムーンウォークで。しかしシートの上に後ろ向きで正座するのはどうかと思う。

　　係員の方は手馴れたものらしく、何にも言わずに去って行った。

　「どんなだろうねー」

　　高見さんと一緒にそれを眺める。

　「それでは出発しまーす。白線の内側までお下がり下さーい」

　　ガシュッと音がしてコースターが浮き上がる。

　「只今の上映は、サイコホラーサスペンス十番勝負になっておりまーす」

　「あ、これ私前に見た事ある」

　「うん、僕も。じゃあ帰ろうか」

　「うん、そだね」

　　そうして、僕と高見さんはさっさと帰ったのでした。

　「ここって、コースター型映画館だったんだね」

　「うん、そだよ」

　　にっこり笑う高見さんと、奥から響く赤司の叫び声が好対照に思えました。　

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