13-7.好意という狡猾さ


 二功臣への最高の援助。それは無論、張耳を秦へ戻す事である。二功臣を助けられるような人材は彼を

おいて他にはなく、彼以外に出来る事ではない。彼が集縁から居なくなるのは様々な面で痛手となるかも

しれないが、有能な張耳が遠ざかる事は友人ではなく楓王として考えればありがたくもある。

 楓流は己の計画を一事置き、張耳を秦へ戻すべく工作を始めた。その為にはまず発言力を増す必要があ

る。そこで秦が双へ働きかけているのを幸い、秦と双を結ばせ、楓と双で秦へ働きかける事を考えた。

 これは危険な賭けと思えたが、今は張耳を秦に戻し、魯允を押さえ、その危険性と不安を解消させる方

が重要であろう。

 他にも楓流と双正との仲が絶対であると考えたから、という見方もある。楓流が双正の望む人物である

限り、決して彼は裏切らない。そして楓流は双正の望む人物像が自分の養父のような人間である事をはっ

きりと理解している。楓流がそれを忘れぬ限り、双正は味方してくれるだろう。勿論、双にも利益がある

限りは、という条件はあるが。

 それに双が裏切らないと仮定しても、実行するにはまだ障害がある。それは双の重臣達の事だ。彼らを

双に趙深が居た頃のようには上手く操縦する事は出来ない。双臣をこの手に乗らせる為には、まずそれが

彼らにとっても有利である事を、解りやすく教える必要がある。

 そこで楓流は彼らの説得に秦と周の関係を利用する事にした。

 彼の目論見(もくろみ)はこうである。

 秦と周は長らく争い、今は西方大同盟で結ばれているとしても、決してその仲が改善された訳ではない

事は周知の事実である。西方内には大同盟終結の機会を利用して、四家の仲を取り持とうと考える者も居

たようだが、全て失敗している。

 最早(少なくとも)この四家の関係は修復不可能であり、ただ利害損得によってのみ協力と対立を繰り

返す。だがそれだけに利がある限りその関係は非常に強固で、西方共通の脅威が完全に去ったと考えるま

では決してその関係を崩そうとは考えないだろう。

 しかし決して四家の関係が今より親密になる事はなく。婚姻同盟を結んだ呉と韓にしても、秦と周とい

う彼らを個々では上回る勢力が消えてしまえば、あっさりとその関係を反故(ほご)にする筈だ。

 西方大同盟はそのような関係の中で成り立っている。

 だから西方内での緊張が高まっているのは確かで、秦を他の三家が圧迫するような構えであるようにも

見えるが、秦を滅ぼそうという気持ちまではおそらく無い。今はその時期ではなく、単に四家内での力関

係を変えようという目的であると思われる。出来れば秦を落として三家にしたいという望みも無くはない

のかもしれないが、西方という力が揺らぐようであれば、政策をすぐに改める筈だ。

 そういう意味で、双が秦と繋がる事も西方全体の関係からすれば悪くない。双という良い交易相手が出

来れば、秦の国力がより安定する。国力が安定さえしていれば、政情が多少揺れようともある程度持ち堪

えられるものだ。

 他の三家も、少なくとも今は、秦が崩れる事を望んでいない。秦が安定する事は望ましい。

 しかしそうなれば周へ行く物資の量が減るではないか、という疑問も発生する。そんな事を果たして周

が黙って許すだろうか。その疑問は尤(もっと)もだが、実はその事は周に対しても利が無いではない。

 前述したように周は越との関係も深めようとしている。しかし周と双との関係が深過ぎると、越に警戒

心を抱かせてしまう。

 越と双は領を接している国である。北方同盟によってその関係は良くなっているが、必ずしも信頼して

いる訳ではない。周と双が必要以上に関係を深めていれば、周が越と関係を深めたがっている裏に、実は

双の意図があるのではないか、という疑いを抱かれてしまっても不思議はない。楓流が双を利用して秦に

口を入れようとしているのと同様、双が周を使って越への発言力を増そうと考えてもおかしくないのだ。

 確かに水運の権利を手に入れた今、越の力、経済力は飛躍的に上昇している。越と繋がる事は周にとっ

ても得策であり、それを望むのはむしろ自然である。だから周が越に近付くのは納得出来る。しかしもし

その裏に双の影があるとすれば、孫との戦い以前に比べ、数倍の領土となった双をこれ以上利する事は避

けたいし、政治的に干渉される事は損得以上に腹立たしくある。

 越の経済力は双に並ぶ、いや或いは超えてさえいるのかもしれないが。国の領土自体は広くない。呉と

いう終生敵国を抱えている事もあり、双と共に周という勢力が干渉してくるとなれば、いくらかは譲歩せ

ざるを得なくなる。関係が深まれば、使者を無下に追い返すわけにもいかなくなる。越にも周と結ぶ利は

あるのだが、迂闊に関係を深める訳にはいかないのである。慎重にならざるを得ない。

 だからそこで例えば双が周を仲介にして秦と同盟を結べばどうだろう。周としては双との関係を緩和す

るという意思表示になるし。周が例えそこまで表立って双秦の間を取り持たなくても、暗に認めるだけで

越の警戒心をいくらかは緩める事が出来る。周にとっても悪い話ではなくなるという訳だ。

 では肝心の双にとってはどうか。勿論双にとっても悪くない話である。

 越の周への警戒心が緩むという事は、その裏に居ると考えていた双への警戒も緩むという事であり。周

は双とも結んでいるから、そこに越が加わるとすれば双と越との関係も自然と強まる事になる。

 それに双が秦と周と繋がる事で、この二国にある敵愾心(てきがいしん)を上手く利用する事が出来る

かもしれない。そして何より、大口の取引相手が一つ増える事は悪くない事である。

 このように四方丸く収まり、その上に双の他国への影響力が強まるのだと上手く言い繕えば、双臣を動

かす事はそう難しくはないだろう。趙深がどのように彼らを動かしてきたかを楓流もある程度は知ってい

る。それを参考にすれば、同様の手段を練る事は難しくない。

 双臣達も西方内に緊張感が高まっている事に対し、上辺はどうでも、心中では等しく恐れを抱いている。

頼みの趙深が遠く衛に居る事もそれを助長している。

 だから双秦同盟を結ばせる事は不可能ではない。理由などどうとでも創る事が出来る。

 問題となるのは、どういう同盟を結ばせるか、という点にある。

 秦としては、いや魯允としては何としてでも婚姻同盟を結びたいだろう。だが三功臣の反対と、そもそ

も双がそのような事を認める筈が無い、という点でそれは不可能である。

 それにただ結ばせたのでは、それを進めてきた魯允の勢威が高まる事を避けられない。

 ここは双と同盟を結ぶという点では同じでも、方法として全く別の案を、魯允以外の者の口から進言さ

せ、それを成功させる必要があった。

 そうすれば言い方は悪いが魯允の手柄を横取りする事が出来、魯允の勢威を挫(くじ)く事にもなる。

 ではそれを誰に進言させるか。これは当然二功臣の内どちらか、いや両者が一緒になって進める以外に

考えられない。

 この時ばかりは魯允が秦双同盟を進めようとしていた事が役立ってくれる。魯允一派もまさか自らが主

張していた案を、例え多少の違いがあるとは言え、反対する事は憚(はばか)られる。それでも婚姻同盟

を主張して止まないだろうが、それが成る事は無い。どちらにせよ代案として別の形の同盟案が必要にな

るだろう。そうなればもう二功臣の独壇場(どくだんじょう)である。

 そして二功臣と魯允一派の意見が秦双同盟という点で統一されたとなれば、王もそこに異論を挟む事は

出来ない。

 今まで不利益と考えられていた状況を逆手に取る。これは妙案ではないかと思われた。ただし肝心の婚

姻同盟に代わる手段をどうすべきか、という点で楓流は大いに迷っている。

 盟約を結ぶとしてもそれを通商関係に止めるのか、それとも不戦は当然としてもはっきりとした軍事同

盟にまで発展させるべきなのか。そしてそれを決めたとして、周を間に入れるか、それとも呉や韓相手同

様に挨拶のみで済ませるのか。そういった細かな点が問題となってくる。

 それにこの同盟に力を貸した事で幾らかの恩を売れるとしても。双と秦の間が良くなり過ぎれば、足元  この同盟が諸刃の剣である事を忘れてはならない。どの国も自国の利があってこそ動くのであり、他国

の利は楓にとって害となるのが当然の事。他国への干渉は常に諸刃の剣である。他人を動かしていると思

いながら、動かされているのが自分だったという事にでもなれば、目も当てられない。

 しかし迷っている時間はない。やるとなれば一時も早く行うのが得策であり、遅くなればなるだけ魯允

の勢威が高まっていく。魯允の力が増せば増すだけやり難くなるのは確かだ。

 考えた末、楓流自身は双への工作を進め。秦へは、周には挨拶のみとし、双との関係は不戦通商関係に

止める事を薦める、という方針に決めた。

 この案に不満があれば、二功臣が望む形に変えればいい。楓流としては最低限と思える案を伝え、楓は

秦が双と盟約を結ぶ事に異論はない、という意思を彼らに伝えられれば良いのだ。

 後は二功臣が上手くするだろう。むしろ細々とした事を言う事は、彼らに不快感を及ぼしかねない。自

分はあくまでも一つの方針を、それとなく述べるだけでいい。言葉が過ぎれば無用のお節介と取られてし

まう。それは釈迦に説法というもので、無益である以上に有害である。

 考えているのは自分だけではない。他人も皆、自分と同じように自分とは違う似たような事を考えてい

るものだ。そして自分以上の知者は何処にでも居るものである。



 楓流の目論見は上手くいった。双と秦の同盟は楓が暗に仲介、周が黙認する事で成った。ただしそれは

通商を超えた軍事同盟で、その点が誤算である。どうやら双臣が抱いていた恐怖心は、楓流が考えていた

以上に強かったらしい。

 趙深の居ない双はたがが外れたようであり。秦もまた二功臣が上手く魯允を利用した形に出来ているも

のの、魯允の積極性には幾らか譲らねばならぬ所があったようだ。これにより魯允は面目を一部だけでも

立てる事が出来、その発言力を幾らかは残した。

 思うようにはいかないものだ。

 軍事同盟を結んだという事は、いかに周が黙認したと言っても(当然その代償も安くはなかったろう)、

新たな緊張を生み出す事に繋がる。周と双の間に問題がない内は良いが、もし歪(ひずみ)が生まれるよ

うな事になれば、一触即発の空気を生み出す事にもなりかねないのではないか。

 秦、周、双の関係に絶えず気を配らなければならない。

 そしてこの事で呉韓の動きが活発化するのではないか、という懸念もある。西方の動きは何をどうしよ

うとも荒れる運命にあるようだ。様々な状況に逸早く対応できるよう、諜報組織完成を急がなければなる

まい。

 ともあれ、望みの第一段階を達した。

 続いて第二段階に入らなければならない。

 楓流は双に近付き、張耳を秦に戻すようそれとなく薦めさせるよう働きかけ。その上で二功臣にもそれ

を王に進言するよう薦め。張耳と直接何度も会って戻る事を説得した。

 張耳も以前から国許の事を酷く心配していたので、自ら王にそれを言い出す事は憚られても、商央、范

緒を通じて王の耳に入れてもらうよう説得する事は難しい事ではなかった。

 張耳は双と同盟を結ぶ事を二功臣から言い出す事には賛成しているが、それが軍事同盟にまで発展して

しまった事に対しては不満がある。

 彼の考えでは、今波風を立てるような事は極力避けるべきであり、同盟を結ぶにしても最低限のものに

止めておく事が重要である。

 そしてそれは二功臣も同様である筈だが、結果としては重過ぎる盟約を結ぶに到った。そして王もまた

それに従っている。これこそ秦が病んでいる証ではないのか。

 故に張耳が戻り、三功臣が協力して秦を立て直す事に異論は無い。むしろ張耳自身にそうしたいという

気持ちが多くある。

 そこで問題となるのが、張耳の代わりに誰を集縁に置くか、という点である。

 確かに集縁の民も今は張耳を信頼し、全幅とはいかぬでも統治者として認めている。少なくとも今のま

まで行く限り、集縁の民は秦に反意を起こしたりはしないだろう。

 秦という国をある程度は民も認めており、以前のように張耳でなければならないという状況ではなくな

っている。それなりの人物でも充分治める事は出来るだろう。

 しかしそれなりの人物でも今の秦には難しい注文である。人材が居ないではないが、魯允側に付いてい

る者も居るし。秦を立て直すという大事を為すとなれば、それだけ多くの人材が必要となる。集縁まで考

える余裕が無い。

 とはいえ無能な人物を寄越せば民を刺激し、待ってましたとばかりに楓が接触してくるだろう。張耳も

政治の上でまで楓流を信頼している訳ではない。友人ではあるが、敵でもある事を忘れてはいない。

 それなりの人物を推挙しなければ張耳は首を振らぬだろうし。かといって後釜選びは秦に任せる、とい

うような無責任な事を言えば、こいつ何を調子の良い事を言っているのだ、何か企んでいるな、と張耳に

要らぬ疑いを持たせる事になる。

 楓流は心底迷った。それなりの力量があり、三功臣の改革にさほど関係ないだろう人物。となると魯允

派に組している者の中から選ぶ事になる。

 張耳、商央、范緒の三功臣から秦の内情を幾らかは教わり、間者から幾らかの情報を得、目ぼしい人物

の名は楓流も大体知っている。それでもこれは難問である。そのような都合の良い人物が、果たして秦に

居るだろうか。

 いっそ張耳自身に聞くという案もあるが、それでは誤魔化しにしかならない。そのような見え透いた手

を張耳が看破(かんぱ)出来ぬ訳がない。

 ここはやはり楓流自身が決めるべきであった。

 楓流は悩んだ末、甘繁(カンハン)という男を選んでいる。

 甘繁は三功臣程ではないが、彼らより一回り二回り若く、才覚も見識もあり、言ってみれば三功臣に次

ぐ人材である。しかし自ら立とうという気は薄く。控えめとは言わないが、危機に立ち向かうよりも回避

しようとする型の男だ。

 そういう性格からか三功臣に逆らう事はしないが、心服しているようでもなく。今もどちらかと言えば

魯允派に属している。魯允に心服している訳でもないが、まだしも魯允の方が自身の考えに近いという事

なのだろう。

 甘繁は西方内にこだわらず、各国と積極的に結ぶべきだと大同盟以前から考えており、その姿勢を今も

崩していない。もしかしたら大同盟自体にも反対なのかもしれない。

 確かに西方が団結して事を成す事は悪くない策であり。孫という恐るべき相手が居た頃はそうする事も

吝(やぶさ)かではない。

 だが秦は大陸西端の国。中央に行くにせよ、北方に行くにせよ、他国を通らなければならない。その地

理的状況を考えれば、秦が孤立させられてしまう事態も考えられる。もしそうなれば秦一国で乗り切る事

は不可能だ。

 だから西方ではなく、むしろ北方や中央と結び、他の三家を挟撃出来る状況を作る事で秦の威を高め。

その威で他国を牽制しながら西に広がる無人の地を開拓し、領土を広げる。他国と争って被害多く領を広

げるよりは、例え時間と労力がかかっても、被害少なく西側に広がる土地を開拓する方が良い。

 しかしそういう考えは少数派であり。外交を重視する点は魯允と一致しているけれども、それ以上では

なく。ある意味彼こそが最も秦で孤立している。

 三功臣からすれば魯允同様己が道を行く厄介な男であるが、確かに有能で、戦嫌いの思想は集縁の民に

も歓迎される。その上正確にはどこにも属していない男だ。三功臣派も魯允派もこの男が集縁に行く事に

反対すまい。

 張耳もこの案には納得し、流石は面白い事を考える、と言って、この案を通す為に尽力している。

 幸い事は上手く運び。程無く張耳は秦へ帰還、二功臣と共に政務に励み。その代わりとして集縁には甘

繁が赴任してくる事になったのであった。

 そしてこの事が期せずして楓流に良い縁をもたらす事になる。巡り合わせとは不思議なものだ。



 甘繁が集縁に到着したのを知るや、楓流は早速祝いの品を持たせて使者を送った。相手が警戒する事を

恐れ、政治の話は一切せずに祝辞のみを述べ、祝いの品を贈るだけで返るようきつく申し渡してある。

 本来ならこの使者に甘繁の人柄や考え方を探るよう命じる所だが、余計な事はしない事にした。

 甘繁も張耳と楓との間に親密な繋がりがあった事を知っている。当然自分が推挙された裏には楓流の思

惑があっただろう事を察している筈だ。

 おそらく楓への警戒心を抱いてここにきたに違いない。そこに無用な干渉をしようとすれば、それ見た

事かと敵意を増幅させるだけである。

 今はただの挨拶でいい。後は甘繁の統治さえ見れば、彼の考え方や人柄が自ずと察せられる。わざわざ

その人を見ずとも、その人に聞かずとも、その行動と結果を見ればある程度知る事は出来る。ならば無用

な事でわざわざ関係を悪化させる必要はあるまい。

 甘繁は祝辞を述べるだけで辞した使者に対して拍子抜けしたようだが、特にそれ以上何する事も無く。

彼の方からも最低限の返礼をするのみで、後は全てを無視するように自分の仕事に取り掛かったようだ。

楓流が尻尾を出すまで待ってやろう、という腹なのかもしれない。

 それならば楓流としても望む所である。これでじっくりと甘繁を見る事が出来るのだから。

 甘繁は想像以上に有能であった。秦から離れた事で、逆に全ての事がやりやすくなったのかもしれない。

その統治は張耳以上に穏やかで、強く干渉せず自ずから従わせるような形を作る事から始め、辛抱強くそ

れを成していく。

 民の意見も兵の意見もよく聞き、波風を立てる事は極力避け、平穏である事を第一とした。

 それらを見定めた上で楓流はこれは大した人物だと感じ入り。改めて使者を発し、知遇を得ようと行動

し始めた。

 甘繁はそんな楓流に当初は警戒していたのだが、徐々にそれも解けていき、今では相応の敬意を持って

対するようになっている。

 楓流も焦る事はせず、公務に関係の無い話をして時を過ごしている。

 こうして一月くらい経った頃だろうか。秦では三功臣が揃(そろ)い、魯允の手綱をしっかりと握り締

めて国を立て直し始めた頃。甘繁の許で楓流は一人の人物と遇った。

 その名は玄信(ゲンシン)。西方随一の技術力を持ち、民からも広く尊敬され、王すら軽々しく手を出

せないという、玄一族。その中でも特に名高い、二玄と呼ばれる内の一人である。

 何でも甘繁が秦西の開拓を実行する為に玄一族の力を借りようとした事から知り合い。玄一族としても

戦で奪うのではなく開拓して増やすという考えに賛同し、もう玄信とも長い付き合いになるらしい。今で

は大分二人とも歳を取ってしまっているが、その熱意は薄れておらず、いざ実行可能となった暁にはすぐ

さま実行出来るよう、月に一度は二人で会って準備しているそうだ。

 何でも計画自体はとうに出来ており、後は資金と許可さえ出ればすぐにでもそれが出来る状態にあるら

しく。一度は孫との一連の戦が終り次第着工する予定だったのだが、魯允が出てきたせいで流れてしまっ

たのだとか。

 それを恨む事もせず、双と結ぶのも確かに必要な事だと真顔で言えるのは、二人とも大物の証拠なのか、

それとも余りにも長く準備を進めてきた為に、少々の遅れなど何とも思わなくなっているのか。

 ともあれ、以前からその存在に興味を抱き、是非とも知り合いたいと考えていた楓流は、これぞ天の巡

り合わせと喜び、用意してきた話は置いておいて、三人でささやかな祝宴を開いたのであった。

 玄信の方も楓の持つ鉄器などの高い技術力には一目置いていたらしく、すぐに意気投合し、友情を祝し

て杯を交し合うまでになっている。

 三者の関係は急速に深まり、楓流は玄一族との繋がりを得る事が出来た。

 そしてこの縁が楓流の人生を少なからず助ける事になるのである。




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