19-10.弱者の理


 布王、布崔(フサイ)は堅実で無理をしない統治で知られている。しかし恐怖心が強いのか、本来は勇猛

なのか、時折思い切った行動に出る事があった。

 この布崔、楓から離れるという選択肢を現実的に考え始めている。

 その気配は先に楓から無理難題を押し付けられようとした時に濃くなったが、以前からそういう声が全く

無かった訳ではない。いかに楓が強大で、領土を広げてもらったりしているとはいえ、布の貢献(こうけん)

に比べれば、あまりにも少ない報酬(ほうしゅう)ではないかと。

 布は以前は貧しく、食うのが精一杯という小さな国でしかなく。今のように影響力を持つようになったの

は楓のおかげなのだが、人は恩を忘れるものであるし、余裕が出てくれば気も大きくなる。

 政府だけではなく、布民にもその気があるようだ。彼らの多くは布国の価値を知っている。おそらく蜀を

見て悟ったのだろう。

 そこに楓が直接的な軍事行動、軍事力による脅し、を採った事で、楓に対する不信感と不満が飛躍的に高

まり、抱いていた危機感と野望に火を点けた格好である。

 天水、蜀とくれば次は布にきてもおかしくはない。狄、梁という国もあるが、それよりも付き合いの長い

布からまず取り込もうと考えるのが自然である。狄、梁を狙うとすればそれからだろう。

 秦が積極的に楓勢力へ接触するようになった事で、楓もまた警戒を強くし、多少強引な行動に出ても支配

力を強めようとしている。

 焦っている。そう受け取ってもいい。楓だけでなく、秦もそうだ。だからこそ朱榛のような者に上手く利

用されるようなへまを犯すのだろう。

 その想いがまた軽い失望と共に野望を煽(あお)る。

 主役に昇りたい、という訳ではないが。彼らも相応の重みを与えられたい、くらいには考えている。だか

らその心を踏み躙(にじ)った楓に対し、(他者から見れば)必要以上の怒りと不満を抱いた。

 国として成熟し始めている証なのかもしれないが、楓にはそれも傲慢に映る。

 一体、自分の権利などというものはどういうものなのか。誰が定め、誰が受け容れれば良いものなのか。

そしてそれは何をもって正当となるのだ。

 一国として見れば当然の主張であれ、属国として見ればあまりにも過ぎた考え方。布は楓が助力する事で

初めて生き延びられた国。それなのに今以上の見返りを要求する事が果たして正当な行為なのだろうか。全

ての国家に無制限に主権と独立を認め、与える事が本当に正しい事なのかどうか。

 それを否定できる根拠は無いとしても、積極的に肯定する根拠も同じだけ無いのではないか。

 結局どちらも相応に互いを利用してきただけであるなら、そのどちらにも正義も大義も存在しない。

 しかし人は不思議な事に、いつもどちらかが正しいのだ、と考える。どちらも間違っている。どちらも正

しい。そんな理屈は通らない。どちらか一方しか容れられないのだから、どちらか一方にしか正しさは無い。

そんな数式を当てはめるように、ただ一つの答えを導き出そうとする。それが義務だと言わんばかりに。

 それがつまり、人の争いの種、という奴である。

 布王は最終的に、楓が手段を問わなくなった、と判断し。布に災厄が降りかかる前に生き延びる為の策を

施(ほどこ)しておこうと考えた。

 その為にもまず朱榛、そして子遂(シスイ)との間に繋がりを得ようとした。

 本来なら直接秦と結ぶべきなのだが、距離が離れ過ぎている。凱聯軍程度なら出し抜いて突破する事も可

能だが、さすがに楓本国を抜く自信は無い。諜報力において楓と並ぶ国家はなく。布などという小国がどれ

だけ力を注いだとしても、検問を越える術は見付からない。

 秦との緊張が高まっている今は尚更であろう。布から来たというだけで怪しむに足る。それが秦へ行こう

とする事の意味は言うまでもない。

 そうなった時、布は無事でいられまい。布単独で楓に対抗できる訳がなく。北には衛という国もいる。

 趙深が楓流以上に合理的で、時に冷酷な判断を下す事は知られている。だからこそ頼もしかったのだが、

今となればただただ恐ろしいだけだ。布の考えなどとうに読まれているだろう。

 布が早く行動を起こしたがっている理由の一つにはそれがある。早くしなければ趙深が何をしてくるか解

らない。趙深の恐さはその知力、権謀術数にあり、それを用いて驚くべき事を成してきた。

 布にもすでに何かしらの対策をとっているはず。もしかしたら布への介入もその一環かもしれない。

 そうして後に中諸国の癌である子遂と諍(いさか)いを起こさせ、攻め滅ぼさせる。

 案外そんな所ではないのか。

 天水の一件で子遂は弱体化している。叩くなら今だろう。

 凱聯軍を派遣させたのも、そういう意思表示と取れなくもない。お前らに振り回される時は終わった。考

慮する時は過ぎた。邪魔者は即座に滅ぶべし、と。

 秦と楓との間に立って上手く立ち回る、と考えるのは夢なのかもしれない。同盟勢力も合わせれば楓の力

は圧倒的だ。果たして秦に世に言われている程の力があるのかどうか。

 そういう事を考えれば、秦を当てにするのではなく、まず中諸国全体で立つ事が必要だと思える。

 最低限それくらいの大きさと強さを持たなければ、秦も楓も考慮しないだろう。蜀にしろ天水にしろ、結

局小国でしかないと目されているから舐められるのだ。中諸国に以前のような脅威を感じないからこそ、楓

流は雑な手を打ってきた。

 そう考えれば、明確にものが見えてくる。

 布王は無能ではない。思慮が足らぬ訳でもない。よくよく考え、それから後に冷静に事を運ぶ型の人物で

あった。彼もまた自国を生かす為に最善の手を打つとすれば、楓に対する信頼が薄れた今、一体どのような

態度に出てくるか、を現実に考える事が必要ではないだろうか。



 布王はこれ以上隠す必要は無いと考えた。

 何をと言えば、楓への叛意である。

 隠したとしても容易に想像できる事であるし、一度生じた疑惑は決して晴れる事が無い。一度疑えば、二

度と信じられない。むしろ何があってもその疑いを貫こうとする。それが人というものではないか。

 そう考えれば、布王もまたそれを抑えようとするより、むしろそれを利用して次なる段階へ進もうとした、

と考える方が自然である。

 以前からあった不満が抑えられない程に大きくなっている、という理由があったとしても。それを知らせ

るには覚悟が必要である。彼の性格からして無策で動くとは思えない。

 それを現実に則して言うなら、例えば子遂や梁、狄といった国々と以前から秘密裏に何かしらの条約を結

んでいたのではないか。

 楓の諜報網は確かに優秀だが、さすがに他国の奥の奥までは踏み入れられない。自国に入ろうとする間者

を見付け、処分する程度なら問題なく行なえるが。同盟国、属国とは言っても、その国の協力なしには幾ら

の事もできはしない。

 その国が協力しない範囲においては楓もまた無力に近い、という考え方も成り立つ。

 全てを知る事は不可能である。特に布は楓に対し忠実であり続け、相応に信を置かれていた。ならばその

網をかいくぐる方法を見付けていたとしても不思議はない。忠実に従ってきたのも一つにはその為だった、

という考え方も成り立つ。

 むしろ今まで何の関わりも無かったと考える方が不自然なのだから、梁や狄とは連携を取る為の連絡つい

でに様々な事を話していたと考えても良いのかもしれない。

 子遂と組むという考えには多少無理があるとしても、梁や狄との間に密約が結ばれていたとしても不思議

は無い。

 まさか布が、そう考える事こそが隠れ蓑になる。

 そして今その事を隠しもしないという事は、ある程度形として出来上がっているという事ではないのか。

 楓流もそう捉え、対処するよう命じる。

 そして自らも中諸国を睨むべく、南方北東部に新たに造られた拠点、小椎(シャオシィ)に向かったので

あった。



 小推は当て字で、名付けたのは部族らしい。その意味は知られておらず。当て字だから文字から推測する

事もできない。

 拠点としては大きくなく、交易の中継点といった様相で、主に梁に入る準備の為に使われている。宿も多

く、宿場町といった色合いが強い。

 兵舎も造られているが、規模は小さく(梁を警戒させない為という事もあるのだろう)。千も容れれば一

杯になる。

 楓流も少数を率いて入り、兵の総数は常駐している守備兵と合わせて八百といった所。本軍は南改に置い

たままで、壬牙(ジンガ)に任されている。手元に連れてきているのは紫雲竜以下三百の兵で、部族兵、賦

族兵から特に選ばれた手練(てだ)れ揃い。数は少ないが、有事の際には修羅の如き力を発揮してくれるは

ずだ。

 兵達は緊張しているようであったが、紫雲竜の命をよく聞き、きびきびと動く。その運動は見事なもので、

部族兵と比べても遜色(そんしょく)ない。連携も密にとれており、軍として今すぐ用いても全く問題無さ

そうだ。

 純血の賦族も多く、全体的に大柄で遠目から見ても迫力がある。彼らが一斉に動く様は見ていて美しい。

大きな体が機敏に動く様は不思議な喜びと頼もしさを抱かせる。

 楓流はそれを見、終始機嫌が良かったようだ。安心させる為に無理に笑っていた、という可能性もあるが、

その場合もいくらかは本物だろう。

 紫雲竜は部隊指揮に優れ、皆喜んでその命に従っていた。勿論、楓流の命にもだ。

 賦族兵だけでなく部族兵にも当たり前に受け容れられている事を思えば、普段の生活でも良い関係を築け

ているのだろう。壬牙とはまた違った意味で頼もしく思える。

 壬牙と紫雲竜、正規兵と賦族兵、この二つを上手く組み合わせる事ができれば、楓の軍事力は飛躍的に増

すだろう。

 計らずもこの時、楓流には楓軍の未来像が見えた。その中には当然のように凱聯の姿は無い。

 楓流が梁付近にまで出てきた事はすぐに中諸国中へと知れ渡り、その全ての国に若干の緊張と恐れを生じ

させた。

 それは布において最も強かったはずだが、布王は慎重さを保ち、軽率な行動を避けている。

 楓流もそれを静かに眺めている格好だ。



 楓布共に目立った動きを抑え、遠くにて睨み合う格好になっている訳だが。これが想定していなかった影

響をある国に及ぼす。

 梁である。この国は実質法瑞(ホウズイ)が治めているのだが、元々彼の地位は江南の守備隊長に過ぎず。

この時代、この場所にたまたま居なければ、一守備隊長で終わっていただろう男だ。

 そんな男が今国を、しかも他国の王の命で牛耳っている。王とその側近に耐えられる訳がない。

 梁政府は中諸国の中でも一番酷い扱いを受けてきた。唯々諾々(いいだくだく)と楓に従うしかなく、そ

の意向は完全に無視された。

 例え鏗陸(コウリク)や趙深が最低限の礼を示していたとしても、梁政府に自ら立つというような気概が

無かったとしても、変わらない。部族という脅威が消えた今、遠慮なく恨みをぶつける事ができる。彼らは

初めから楓に恩義など感じていなかった(まあ、当然だが)。

 法瑞もその事は知っていた。

 そして楓の支配力が低下するに従い、強い危機感を抱いた。

 彼は誰よりも早く手を打っておくべきだと考えた。このままではいつまで自分の地位が保証されているか

解らない。やるなら早い方がいい。今なら手を結ぶ相手はいくらでも居る。

 そこに楓流が少数の兵を伴って小椎まで出て来た。これを天命と言わずして何と言おう。

 楓流の手勢は千に満たない。梁にも大した兵力はないが、二千や三千の兵なら用意できる。楓は楓流が居

てこそ成り立つ国。趙深でさえその役割を代わる事はできない。

 ならば、例えば今もし梁が楓流を討てば・・・・、いや、そこまでは不味いか。そんな事をすれば法瑞も

生きてはいられまい。

 となれば楓流を手中にし、その名を借りて全てを動かす方が理に適っている。

 これは愉快な提案に思えるが、法瑞も愚かではなかった。

 彼は逆に見せようとした。楓への忠誠、そして自らの力を。勿論、いつでも討てるがそれをしなかった、

という態で恩を売る事は忘れない。楓流の地位など初めから望んでいなかった。例えば魏繞(ギジョウ)の

ように皆から重んじられる立場になれれば良かったのだ。

 法瑞は善良ではないが、邪悪でもなく、人を苦しめる事に喜びを見出しはしなかった。人に好かれ、敬意

を受けたい、という誰しも持つだろう人並みの欲を満たす為に生きた。

 良くも悪くもなく。無能でも有能でもない。要するに普通と言える人間だったのである。

 法瑞が意識を向けたのは楓流ではなく、布国だった。子遂でも狄でも蜀でもなく、現状で最も楓流が警戒

し、その為に出てきただろう国。この布国を自分の手で押さえれば、表面上は何と言ったとしても、必ずや

感謝されるだろうと考えた。

 恩さえ売っておく事ができれば、例えその過程がどうであったとしても、ほとぼりが冷めた頃に重用して

くれるだろう。

 その場合は名を変えるなりしてもいい。話に聞けばそのようにして楓に入った者がいると聞く。自分がま

たそうしたとして、何の不都合があるのか。

 楓は高潔を持ってよしとする。しかしそれだけでは動かせない事もある。だからそういう部分を請け負う

存在がいつでも必要なのだ。

 法瑞は多くの人間と同じように、人の良心を信じていなかった。敢えて悪になる必要はないとしても、望

んで善になろうとする人間はそれ以上に少ないだろうと。

 だからこそ自分のような人間に価値が出てくる。太陽と星のように輝くばかりではない。その影となる者

も必要なのだ。

 それが的を射た意見であるのか、そうでないのかは解らないが。少なくとも法瑞は自分という人間に価値

があるなら、そこしかないと考えていた。武も誇(ほこ)れず、知略も無い。長年守備隊長を努めてきた間

に作り上げた人脈など、もう役には立たない。

 それに代わる新たな価値を必要とした。

 本当に必要だったのかは解らない。だが彼自身にはそれが必要だった。

 その為なら何も厭(いと)わない。法瑞は梁という国を捧げようとさえ考えていた。最早この国も楓とっ

ては邪魔でしかないのだから、そうする事にも価値が生まれる。政情不安定な小国群など悩みの種にしかな

らない。この地を落ち着けるには各国の権利を認めるのではなく、武力によっての統一が必要なのである。

 狄がそうして多少なりとも力を得たように、従うにしても反するにしても中諸国の統一こそ必要なのだ。

 小国の意地や誇りなどに何の価値も無い。このままでは例え一時隆盛を得られたとしても、楓と秦の争い

が終わった後で憎しみと滅亡が返ってくる。

 法瑞はその事をよくよく理解していた。敵がいる間にしか揮えない権威など、無価値であると。

 希望があるとすれば中諸国の統一。しかしそれが不可能な事も知っている。大同盟のようなものを結んだ

としても、希薄で無価値なものになるだけだ。中諸国には団結する理由が無い。争う為だけに国ができ、栄

えたのだから。

 大局的な物の見方ができるのは、自分独りくらいだろう。

 梁政府にそういう人物が一人と居ない事が腹立たしい。妬心と恨みしか持っていないような奴らばかりだ。

部族との問題が解決し、ようやく一時の平穏を得られたというのに、やる事と言えば権謀術数とすら言えぬ

小細工ばかり。

 一つ一つは他愛無くとも、それを一々潰しているこちらの身にもなってみろ。

 人気も下がっていく一方だ。

 梁民の評価は低くなかったはずなのだが、梁政府との詰まらぬ小競り合いで印象が悪くなり、今でははっ

きりと嫌われている。楓の後ろ盾がなければ、完全に無視されるかそれに似た扱いを受けている事だろう。

 話によれば鏗陸を懐かしみ、望む声も高まっているとか。だが実際に鏗陸が戻ってくれば、今度は法瑞を

懐かしむのだろう。あの頃はまだ良かったと。

 彼らはいつでも現状が気に入らないのだ。自分で動く事はせず、ただ今が変わる事だけを望んでいる。そ

の先に何があるのか、考えもせずに。

 梁にはほとほと愛想が尽きた。

 法瑞は元々精力的に活動する方ではない。彼の嫌う人間達と同じ、どこにでも居る一人の身勝手な人間で

ある。

 そして目的を遂げる為、布に対して次第に高圧的な態度を取るようになっていった。梁政府の意向など最

早気にもしない。

 彼独りが王である。

 梁政府は法瑞の態度に驚き、すぐさまそれを改めるよう命じた。いかに権力を持とうと彼は梁の臣である。

王が命ずれば従うしかない。

 だが法瑞はその命を黙殺した。

 それどころか、梁の名で布に対して公式に抗議の使者を送るようになった。

 梁政府は慌てて釈明の使者を出そうとしたが、全て法瑞に握り潰された。

 その上、狄や天水、蜀、子遂にまで志を共にするよう使者を出してもいる。これは布に対する宣戦布告に

等しい。

 他国は皆この激しいとすら言える行動に驚き、困惑した。最も驚いていたのは、当の布国であろう。布王

達もまさか中諸国の中から敵対する国が現れるとは考えていなかった。

 彼らは楓と秦の間に立って初めて価値が生まれる。中諸国同士が争ったとして、得するのは楓だけだ。法

瑞は気でもふれてしまったのか。

 だがこうなれば布も引き摺(ず)られるしかない。このまま黙っていれば、本当に攻め滅ぼされてしまう。

  布と梁を比べれば、様々に恩恵を受けてきた布の方が国力、軍事力共に上だろう。しかしそれだけの事だ。

疲弊して力を失えば、もう二度と立つ事はできない。勝とうと負けようと結果は同じなのだ。

 戦をすれば滅ぶしかない。悲しいが、それが現実である。

 結局布は楓にすがるより他無かった。楓に梁の説得を頼む。それ以外に方法は無い。もしここで秦に助け

を乞えば、法瑞はもっと直接的な行動に出てくるだろう。

 すでに彼は自分の意思を示した。今更退けない事は彼自身が一番よく解っている。理解はできないが、全

て覚悟の上である事は解る。

 全く、なんという事をやらかしてくれたのだ。

 すがった以上、楓の保護下に入る事になる。楓流はどう考えるだろうか。今となっては布も邪魔者でしか

ない。この機会に内部の反楓勢力を一掃しようと考えるかもしれない。いや、そうに決まっている。容赦は

しないだろう。

 以前ならそんな事は考えなかった。しかし今の楓は違う。翻(ひるがえ)って考えてみれば、この一連の

行動自体が楓流の命である、という可能性もある。

 とすれば布が採れる道は滅亡か完全なる従属の二つに一つ。

 布王は苦渋を飲みながら、一国の王の名を捨て、楓に併呑(へいどん)される道を選んだ。そういう思い

切った行動を採る事が、彼らにできる唯一の抵抗手段だった。王とその側近をそういう形で権力の座に残す

事だけが。

 こうして布という国は消滅し、楓流の直轄領を経て天水へと組み入れられた。布王、布崔には天布将軍の

名が与えられ、天水を任されている桐洵(ドウジュン)とも対等に意見を交わせられる権限を得た。

 とはいえそんなもので法瑞への憎しみが消える訳もなく。死ぬまで許す事はなかった。そして楓に対して

も拭えぬ不信感を持ち続ける事になる。

 つまりは不安の種が増えたという事だ。

 果たしてこれが楓にとって良かったと言えるのかどうか。

 解らないが、楓流としてもこれ以上はどうしようもなかった。




BACKEXITNEXT