19-9.朱榛


 蜀に新たな動きがあった事は楓にすぐ伝えられた。隠す必要が無いからだろう。二心無き事を見せる為で

はなく、知らせる事で影響を与える。

 その動きは新たに召抱えられた一人の男によって生み出されている。何でも短期間の内に王の信任を得、

強い発言力を持つようになったとか。

 調べてみると秦に縁ある者だという事が解った。

 とはいえ、それに対し、楓が文句を言える義理は無い。蜀という国の重要性が増している今なら尚更だ。

 蜀もまたそれを解って動いているのだろう。

 現在蜀政府の中心にこの男が居るのなら、入れ知恵したのは彼か。蜀を乱す為に秦から送られた刺客と見

ていい。

 他の国にもとうに手が入っているのかもしれない。蜀の動きも、それらから目を眩ます為、という受け取

り方をできなくもない。灯台元暗し。光が当たっている場所だけが全てではなかろう。

 楓流は監視を怠らぬよう間諜達に命じる。彼らもその程度の事はようく理解しているはずだが、解ってい

る事を確認するのも重要である。

 渦中の男の正体を調べる事は簡単ではなかったが、不可能ではなかった。或いはわざと知らされたのかも

しれない。

 男の名は朱榛(シュシン)。こう聞けば馴染みの薄い名だが、この男、以前は施績(シセキ)という名で

呉に仕え。呉に存亡の危機が訪れた時、王と共に新呉へ逃げ延びたというあの男である。結果彼は破れ、王

共々追放処分になった訳だが。同じく楓に恨みを持つ魯允に拾われ、名を変え、秦で生きていた。

 その男が今回刺客として送られてきた訳だ。

 彼も魯允同様王族に取り入る術に長けている。秦はこういう場合に利用する為、魯允没後も罰せず養って

きたのだろう。彼と共にいるだろう元呉王もいずれ大義名分に利用される筈だ。

 この朱榛なら、確かに楓へ素性を教える事にも効果がある。事実楓流はこの因縁を冷静に受け止めはした

ものの、やはりいくらかは囚われざるを得ず、その分だけ思考の幅が狭まっている。

 そこに明らかな敵が居る場合、どうしても注意はその一点にいく。どれだけ努力しようと、その影響から

完全に逃れる事はできない。意識の中から朱榛という存在を消す事は不可能だ。

 秦はそれを解って利用している。楓に大きな衝撃を与える事は無理でも、嫌がらせとしての効果は大きい。

そしてこの嫌がらせは更なる災厄を巻き込む種となりかねない怖さを持つ。

 楓としては早々に始末したい所だが、朱榛の正体を暴く証拠が無い。それに例え証拠があったとして、蜀

に朱榛の解任を求めたとしても、理なき事と退けられるだけだろう。

 以前の蜀なら強硬にいくなり、脅すなりして言う事を聞かせる事もできたのだが。今は朱榛が動き、操作

している。蜀を追い詰め、不用意に刺激しても朱榛を助ける事になるだけだ。

 しかしこのまま蜀を調子付かせれば、国家の威信を失う事になるかもしれない、主従の関係ははっきりさ

せておくべきであり。一つ譲れば、一つ威を失う事になる。

 楓流は間者の中でも特に優れる合(ゴウ)と呼ばれる男を呼び、蜀の情報収集と工作に専念させた。

 蜀が直接何かをしてきた訳ではなく、大きな動きは取れないが。そこに尻尾が出ているならば、掴んでお

くべきであろう。



 数ヶ月が経つと、蜀は朱榛なくして動けないようになっていた。

 無能ではないが意欲に欠ける王。傀儡とするには申し分ない人材で、一定の敬意と影響力さえ与えておけ

ば、ある程度自由に動かす事ができる。

 蜀王も蜀という国の力を増すべく努めてきたのだが、なかなか成果が実らない。その事がまた王の意欲を

失わせる。そして思う、蜀礼(ショクライ)さえ生きていれば、と。

 蜀礼は口うるさく、必ずしもその全てが好かれていた訳ではないが。その努力と国に対する貢献は誰もが

理解しているし、実際彼という牽引者がいなければ今の蜀は無かった。

 彼を失ってからは蜀を動かすに相応しい者が現れず、全てが停滞していた。それが今、再び頼るべき者を

得た。王は救われたはずであり、朱榛によってもう一度変革できると考えたはずだ。

 蜀にも閉塞感が漂い。このままではどうにもならぬ、という気分が蔓延(まんえん)している。例え王に

その気がなくとも、家臣達は違う。朱榛が要らぬ入れ知恵をしているだろうし、今が好機と考えてもおかし

くはない。

 少なくとも、今までは楓に言われるがままだったがこれからは違う、程度には考えているはずで、その気

分を害するような行動を取れば反発するだろう。

 属国とはいえ奴隷ではなく、ある程度は認めているし、だからこそ蜀は楓に従っている。それを忘れて何

でも言う事を聞くだろう、という態度で挑めば、布同様その仲に消えぬひびを入れる事にもなりかねない。

 厄介なのが朱榛は楓に対し私怨があり、だからこそ例え自分や蜀、秦がどうなったとしても、躊躇(ちゅ

うちょ)なくそれを行なう可能性がある事だ。

 魯允がそうであったように、感情に突き動かされる者は時に全てを無視する。人は自分を守りたいと思う

からこそ様々な面倒事に我慢し、だからこそある程度行動を操作、制限する事もできるのだが。その利己心

を上回る感情がある場合、予測不可能な動きをする事がある。

 人の社会はあらゆる約束事があって初めて成り立っているのだとすれば、それを守るという唯一絶対の前

提条件を崩されれば、その一点から瓦解するが道理。

 だから終わる時は一瞬にして終わるのであり、全ては虚構、砂上の楼閣であると言っても差し支えないと

思える。それを堅牢と誤解する所に、人が滅びへ歩む理由の一つがあるのかもしれない。



 蜀の態度が少しずつ変わっていく。主導する者が変わったのだから当然だが、ここまであっさりと主導権

を握ったという事は、内々に秦と何かしら交渉があったのだろう。背後に秦が居ると思うからこそ、見も知

らぬ朱榛を信用でき、楓に大しても強硬な態度でいる事ができる。

 取り入るのが上手いと言っても、何も無くその内に食い込む事は難しい。相応の力を持っていると思うか

らこそ、その言に信憑性というものが生まれる。このやり方も魯允に似ている。

 敢えてそう見せている、という可能性もある。

 そうして朱榛の権威と名を広める事で、いざとなれば全てを彼のせいにし、言い逃れる事ができる。朱榛

というのはそういう意味で蜀にとっても非常に便利な存在だ。

 蜀王がどこかで諦めてしまっているとしても、それで損得勘定ができないという事にはならない。彼も蜀

の事を第一に考えているはずであり。常に受身で居る事も彼の処世術だと言えばそうなのかもしれない。

 案外一番食えないのは蜀王であるかもしれず。今にして思えば、その態度は単純に意欲や野望が無いとい

うのとは、また違ったものであったような気もしてくる。

 蜀の態度が変わった事で中諸国統治は更に困難になった。何しろ楓本国と中諸国を繋いでいたのが蜀であ

る。それを封じられれば、どうしても様々な所に支障が出てくる。

 例えば何かを任せたとしても、それが期待通りに実行されるかどうか解らないし。都合よく賊が現れて伝

書を紛失してしまった、というような事が起こらないとは言えない。今まで以上に気を配らねばならず、そ

れにかかる費用と労力は決して少なくない。

 確かに蜀国には大きな価値があった。

 そしてその価値を最も高く買い、利用したのが朱榛という訳だ。朱榛は次第に秦の意図からも離れ始め、

独立した行動を取り始めている。秦には元呉王や彼に従うしかない者達など、人質代わりの連中が居るのだ

が、考慮する様子は見えない。

 彼らは魯允に取り入る為の材料の一つに過ぎず、それ以上ではないという事だろう。忠誠心などとうに捨

てているし、従っている者達への情など初めから持っていない。朱榛はあくまでも朱榛の為に生きているの

であり、それ以上でも以下でもなかった。

 その点は楓にとっても好条件になる、と思いきや、そうではない。秦の意向に従わず彼独自で動くという

事は、楓と秦どちらの利害にも関係なく動くという事。

 これは秦にとっても厄介だが、私怨を持たれている楓流にとっては尚更厄介である。

 救いがあるとすれば、それはあくまでも私怨であって、蜀全体が楓に対して恨みを抱いている訳ではない、

という点か。

 王の信を得ていると言っても、朱榛は新参に過ぎず、実際にどれだけの支配力、影響力があるかと言えば

疑問である。

 だが、はっきりと仮想敵国である事には違いなく。今まで以上に様々な面において苦難を強いられるだろ

う事もまた事実。

 楓流はこの事態を打破するべく、趙深に南下してもらおうと考えたが。趙深は趙深で楚斉の監視という重

要な役割がある。軽々しく衛から動かす訳にはいかない。

 そこで楓流は凱聯軍を派遣する事にした。

 凱聯は知っての通り独立部隊の将を命じられ、権威を著しく減じる事になった。兵は集縁誕生時から付い

てきている者や縁ある者が多く、士気、実力共に高いが、規模は小さい。与えられる仕事も自然、地味で重

要度の低いものとなる。

 初めは独立部隊という響きに満足していた兵達も、集縁の警備の手伝い程度の事しかさせてもらない事に

対し、次第に不満を募らせていた。

 今回の事はそれに対する処置という意味合いもある。

 とはいえ凱聯軍の軍としての力は本物であり、その名は長く属してきた蜀には割合知られている。凱聯の

性格もそうだ。

 彼にあまり好意的でない態度を取ればどうなるか、ようく解っているはずであり、怒れば楓の利益を無視

して暴走する癖がある点も畏怖に繋がる。楓流ですら制御しきれない厄介な部隊という点は、蜀を威圧する

に充分だ。

 かえって蜀を無用に刺激するだけに終わる、という可能性も高いが。もしそうなってもそれはそれで良い

と楓流は考えていたようだ。今はとにかく蜀を乱せればいい。どうせ敵になるのなら、いっそ凱聯でも押し

付けてしまおう、という意地の悪い考えもあったかもしれない。

 結局、凱聯というのは誰の手にも余る厄介極まりない人物であり、内に抱えていても毒にしかならない人

物。そしてそれを自分の特権と考えている、愚かな男だ。

 しかし誰にとっても毒になるからこそ、役立つ事もある。

 要はどう使うかである。



 蜀が中立に限りなく近付いているとはいえ、依然楓の属国であり、楓を敵にしたくないと考えている。凱

聯軍を駐屯させる意図は明らかだとしても、断る訳にはいかない。

 初め朱榛は何かしら理由を付けて断るよう進言していたらしいが、楓流はそれを察するや朱榛と蜀政府の

意思が必ずしも一致していない点を利用すべく工作を始めた。

 皆朱榛を頼りにしているが、彼独りが権勢を誇る事に対しては強い不満を抱いている。王としてもあまり

秦(朱榛)よりになる事は好ましくない。この申し出は楓と秦との均衡を保つ為に丁度良かった。

 朱榛も王威を奪う所までは足りず、あくまでも王意あっての朱榛である。その言葉は無視できない。

 こうして最終的に凱聯軍駐屯は認められた。

 凱聯軍には真意を知らせていない。中諸国への警戒を強める為、蜀に駐屯する事を命ずる、と伝えただけ

である。余計な事を教えるより、何も知らずに動いてくれた方が手綱を取りやすいと考えたか。多くを教え

ると余計な行動を起こしやすいと判断したのか、は定かではないが。この点からも楓流が凱聯軍にさほど信

を置いていなかった事が解る。

 少なくとも、全てを明らかにし、片腕として使おうとは考えていない。

 凱聯軍などというものは凱聯に与えられた玩具以上の目的は無く。彼らの特権意識を満足させる為だけの

ちっぽけな器に過ぎない。

 だがそんな事とは知らない彼らは、今まで大した仕事を与えられていなかっただけに意気高く、自らの職

務を全うすべく励(はげ)んだ。楓流としては大人しくしていてもらいたいのだが、やる気を出すなとも言

えない。それに例え言ったとして、凱聯にそのような器用な振る舞いができるとは思えない。

 凱聯にはやるかやらないかの二択しかなく。高度な状況判断などは望めない。

 とはいえ、初めはそのやる気が良い方向に働き、蜀国内の引き締めとして賊討伐などを請け負ったり、王

都に留まらず各地に移動しては功を挙げていたのだが。それが長じてくるにつれ、段々と目障りな言動を取

るようになった。具体的に言うなら、無用の意見を一々において述べ始めたのである。

 そうなれば当然朱榛と衝突する。

 蜀側は自国の主権を認められていると考えているが、凱聯は違う。属国は属国、あくまでも楓の臣下であ

りそれ以上ではない、と考えている。蜀は楓の一段下とし、そういう言動を取ったので、次第に国民や兵か

ら疎(うと)まれるようになっていった。

 しかし凱聯はそれでも無頓着に彼の要求を正義、道理と称し、蜀政府に突き付け続ける。

 さすがに蜀政府も嫌気が差し、凱聯軍に対する態度は際限なく冷淡なものになっていった。そうなれば悪

意を感じ取る能力だけは高い凱聯もまた苛立ちを隠そうとせず、語気を荒げ、態度を益々強硬なものにする。

 そして朱榛を嫌う判朱榛派とも言うべき者達が凱聯に接触する事で、事態はより複雑に悪化していく。

 彼らはこのまま朱榛が力を付けていけば、その風下に立たざるを得なくなる。しかし彼らだけでは対抗で

きない。そこで一か八か凱聯に賭ける事にしたのだろう。

 凱聯も下手に出てくる者には温情を見せるので、彼らを受け入れ、これを好機と蜀内の勢力争いに深く干

渉するようになった。

 こうなると蜀王も放っておけず、双方の言い分を聞いて何とか丸く治めようとしたのだが、今更双方が立

つ道などあろうはずもない。

 結局、凱聯と朱榛、どちらかを選ばなくてはならなくなった。そうなれば楓を立てるしかない。秦を後ろ

盾にしようにも、今はまだ楓と直接矛を交えるような事態を望んでいない。影をちらつかせるのがせいぜい

で、表に引っ張り出しそうとしても拒否されるだけだ。

 選択の余地は無い。

 だがそうする事は、その後の秦との関係にひびを生じ、楓と秦との間に立って初めて生まれる利を失って

しまう事になる。そしてそうなれば、楓が蜀に手心を加える理由も失われてしまう。蜀の立場は益々弱いも

のとなるだろう。

 蜀王は悩んだ。生来の性格もあるが、選択する事に恐怖しているという点が大きい。楓を選ぶしかない事

は解っているが、それは蜀という国を手放すに等しい選択だ。

 何とかのらりくらりと切り抜けたい所だが、相手はあの凱聯である。遠慮など初めから無く、王に対する

敬意も薄い。

 決断を下すのがどうしても躊躇(ためら)われる。

 そして王はずるずると決断を引き伸ばし、最悪の事態が予想されるようになった頃。意を決した朱榛が自

ら凱聯に謝罪に赴(おもむ)く事で、悲劇的な結末を回避した。

 この手腕はさすがと言わざるを得ない。

 本来なら朱榛の立場は誰よりも弱い。楓と秦を天秤にかければ楓に傾く事は当然であり、いかに王がため

らっていたとしても、いずれはその決断を下すしかなかった。その時朱榛はどうなっていただろう。少なく

とも大きな顔はしていられまい。凱聯の性格を考えれば追放程度で済んでいたかどうか。

 王は彼を切り捨てる事を迷っていたようではないし、その決断を迫られていた時点で朱榛の命運は尽きて

いた。

 しかし朱榛は凱聯に謝罪する事で自らの命を救っただけではなく、蜀に恩を売った。その上凱聯の信頼を

得、益々立場を強固なものとした。

 反朱榛派も面目を失った格好だ。

 秦もまた蜀で重きを成した朱榛に対し、粗略な態度を取れなくなっている。

 凱聯との関係から蜀共々楓に寝返るという選択肢もできた。

 楓への私怨も一体どれほどの強制力があるのか。それさえ利の前には切り捨ててもおかしくない。魯允が

そうだったように、まんまと重い地位を手に入れ、敵国で堂々としているかもしれない。

 もしくは内部に入り込み、そこから崩そうと企むか。

 どちらにせよ、朱榛には使い道ができた。楓も秦も益々無視できなくなっている。

 このように朱榛という男は変わらず蜀に在り続ける。まさに第二の魯允。腹立たしいが今の所方法が無い。

上手く凱聯に取り入っているようであるし、凱聯軍を派遣した事の意味も失われた。

 だが凱聯を集縁から切り離した事で動きやすくなった事は確かであるし、朱榛に押し付ける事ができたと

考えれば、当初の目的の一つは達したと言える。

 事実上中立にされたと思えば秦の勝利と言えなくもないが。楓も初めから蜀を信用していないので、状況

は変わらない。秦も朱榛に対して絶対の支配権があるようではないし、逆に利用できるかもしれない。

 楓流は一先ず良しとして、今後の為に工作を続ける事にした。

 この一連の事件で得た利があるとすれば、反朱榛派を表面化させた事だろう。すでに凱聯とは別に接触し、

取り込んでもいるし、しかるべき時がくれば役に立つだろう。

 楓流、いやその意を受けた胡曰も黙って見ていた訳ではない。その時の為に様々に動き、手を加えている。

 楓が受身でしかないと考えるのは、愚かな間違いだ。



 蜀の事は一応の解決を見たが、今の状況では一国の問題もその一国に収まらない。この場合、朱榛という

刺客が送られてきた事より、楓が凱聯軍という武力を持って制した事の方が問題である。

 その影響を一番受けたのは布国だ。布は先の一件以来楓の介入に対して敏感になっている。そこに蜀へ凱

聯軍の駐屯である。

 蜀は布と同じく長く楓に従ってきた国。その蜀に軍を派遣した。治安維持の為と称しているが、これは軍

事力によって圧力を加える行為に他ならない。確かに蜀は楓に逆らうような動きを示したが、それも軍を送

り込む程の事だろうか。余りにも強引な態度だと言わざるを得ない。

 今までの楓はもっと思慮深く、他国を尊重していた。秦との事で楓も過敏になっているのかもしれないが。

交渉ではなく軍という直接的な力を用いた事は、いかに属している国とはいえ、その主権を無視する行為で

ある。

 楓は変わった。最も大きな美徳である謙虚さを失ってしまった。

 布を私物化しようとしたのもその証拠だ。あの時は天水が肩代わりしてくれたが、いつまた無理難題を言

われるか解らない。そしてその時、それを覆すだけの力が布にあるのだろうか。

 そういった被害妄想にも似た考えに現実的な脅威を与えられ、布国は警戒心を強くしている。天水も体良

く併呑された訳であるし、蜀の次は布と考えてもおかしくはない。

 こうなった以上、今までとは別の道を行くべきかもしれない。幸いな事に歩を共にすべき理由を持つ国は

他にもいる。秦も高く買ってくれるだろう。その時がきてからでは遅いし、勝敗が決した後では尚更だ。今

この時が最後の機会である。いつまでも楓の風下に甘んじている場合ではない。

 ためらう時はとうに過ぎた。

 全ては今から始まる。




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