21-4.過程という名の結果体


 日が経つにつれ益々宜焚の重みが増していく。それは合議制の支持者を増やす事にも繋がるものの、明開にして

みれば墓穴を深める結果である。

 このままでは宜焚は自らの功によって身動きが取れなくなってしまうだろう。

 新檜、岳暈、荘沢の三名に宜焚への敵対心が強まっている事も気になる。他にも彼を恨んでいる者は居るだろう。

 多くの者にとって善になる事を行っても、必ずそれと同量の損害を受ける者達が出てくる。そして悪い事にそう

いう者達は大抵特権階級にあり、相応の力を持つ。彼らを追い詰めれば何をしてくるか解らない。

 宜焚という男がいかに調停役として優れていたとしても、多くの民を救う道を選べば、どうしても少数の特権階

級と衝突せざるを得ない。そこに私情を全く挟まなかったとしても、それで済むような問題ではないのだ。

 人が全てを捨てでも一矢報いようと考えた時、どれほどの権力を持つ人間が相手であっても、完全に安全という

事は無くなる。人の執念、憎悪、怒りというものはそれほどに恐ろしく、強いものだ。

 それが力を持つ特権階級の人間のものであれば、尚更である。

 しかし宜焚は古の聖人のように自らの安全には無頓着で、例え志半ばで命失う事になったとしても、信念に生き

るべきだと覚悟している。苦言を呈したとしても、聞きはしないだろう。

 尊敬に値する男だが、本当にどうしようもない人間だとも思う。人は命あってこそ輝けるのではないのか。

「幸せな生き方とは思えん」

 そういう姿勢が古来より崇められている事は知っているし、明開の娘なども宜焚のような人間を好むのだろう。

 だが、それでも許容し難い。利害関係なく動く人間というものは恐ろしい。信仰に生きる人間は、商人にとって

最も厄介な人種である。

 新檜、岳暈、荘沢の三名が抱いている嫌悪感の多くもそういう所からきていると考えられる。小さな村の長程度

なら結構だが、一国を左右する立場にあるような男が私的な取引に応じないとは何事か。それは彼らの人生を全否

定する行為である。

 その上、彼らは希望を裏切られた。

 合議制によって権力が(全てではないにしても)狄人の手に返ってくると考えていたのに。ふたを開けてみれば

宜焚の独裁が強まっただけ。

 実際には議長はあくまでも票が同数の場合にのみ決定力があり。例えその力が卓越し、議論をある程度望む方向

へ導く力があるとしても、結局は議員達を束ねる三名に優位があるのだが。彼らは自分の能力の無さを決して認め

たくはないようだ。

 要するに責任転嫁なのだが。狄で唯一の権威となった楓の力を最も効果的に使えるのは宜焚であり、三名の想い

にも同情できる点はあった。このまま何も手を打たずに見ていれば、そう遠くない未来に不満を爆発させてしまう

だろう。

 だが、それこそが明開の望んでいた事。

 狄の不穏分子を爆発させ、掃討する。そうする事で狄にあった不安を解消し、中諸国を安定させる。それが当初

からの目的である。

 とすれば意図せずして目的を達成した事になる。

「自分の勝手な予定にこだわる理由もないか」

 災い転じて福となす。明開自身が驚いているくらいなのだから、他人もまさかこれが彼の策であるとは思うまい。

 例え思ったとしても、真実これは偶然の結果であるのだから否定するのは簡単だ。

 その上、三名が宜焚を憎めば憎む程、彼を被害者の立場に運んでくれる。何が起こったとしても、人は宜焚自

身のせいとは言わず、むしろ同情的な目で見てくれるだろう。

「よしよし、後は流れに任せるだけでいい。なるほど、人の知恵なんぞは役に立たんものよ」

 明開はこの幸運に多少後味の悪いものを感じながらも、気持ちを切り替え、細部を練る事に時間を費やした。

 まだまだ考えなければならない事は多い。

 例えば、越に対する措置などは早急に行わなければならない問題だ。

 知っての通り、合議制に移行する為に越の力を借りた。荘沢という第三勢力を作り上げる事ができたのも、その

背後に越が居ればこそである。

 しかし荘沢は存在感を示す事ができず、越が望む効果を出せずにいる。

 これでは越が楓に協力した意味が薄く、体よく使われた格好で、荘沢ら以上の不満を抱いている事は明らかだ。

楓への貸し一つと考えてもらえれば良いのだが、越は現実的な考えを持つ。貸しなどという曖昧な材料だけでは納

得させられないだろう。

 そこで明開は意図せず完成されつつある計を隠し、必要なだけ楓流へ報告すると共に、越への善後策を乞うた。

 情けないが、越相手では楓流の助力無しに抑える事は難しい。それに外交を任されていると言っても中諸国に限

ってであり、それ以上の問題を処理する事は越権行為となる。

 とはいえ、しくじった事は確かで、楓流の不興を買う事も覚悟していたのだが、意外にも責められず、それどこ

ろか功績を評価されて褒美までよこしてきた。この程度のしくじりは想定内という事だろうか。

 善後策については、狄内での越にかかる税を免除するように、との事だった。

 楓領を定期的に通行、取引する者は税をその都度徴収するのではなく、毎月決まった日にまとめて支払わせる方

式を採っている。秘密裏に税を免除する事は容易で、今すぐにでもできる。

 楓という国はとにかく交通の便については国籍人種問わず絶えず気を配っている。これだけ広範囲に領土が広が

ると、物を運ぶという事が生産同様に重要になってくるからだろう。

 人々が今も尚楓に感謝している理由にもその点が大きく関わっていると考えられている。

 交通の便が発達する事で餓えや物資不足が大きく解消され、人々の暮らしが目に見えて安定するようになった。

楓流は精神的な支柱だけなのではなく、現実的にも人々を救った現世利益のある神という訳だ。

 とはいえ、人は全てに慣れるもの。安定した生活にも民は慣れてきており、以前よりは恩を感じなくなっている。

近々起こるだろう決戦への恐怖もそれを後押しする格好だ。

 例え必要な(と大部分が考えている)事であったとしても、戦などしないに限るし、それを行う者を人は嫌悪し、

恨むもの。

 だがそれらの対処は楓流の仕事であって、明開の仕事ではない。彼の仕事は越との交渉である。楓流から得たも

のを効果的に用い、関係を良好にする。他の事を考えている暇は無い。これにしくじれば今度こそ失望されてしま

うだろう。

 気を引き締めていかなければならない。



 越には終始下手に出る事にし、現状が意図せぬ状況である事を説明した上で、次の議長には越の息のかかった者

を推すとまで伝えた。

 これは明開の独断で、楓の利よりも個人として越と深く繋がる為に言い出した事である。楓流が知れば怒るだろ

うし、越権行為である事も重々承知だが。明開がやろうとしている事を考えれば、越に亡命するという道を作って

おく必要があった。

 それに最終的には楓の利になる事だと信じている。私情を挟んでいる事は否定できないが、結果を出す為には楓

らしくない方法を用いなければならない時もある。

 楓流もそれを知っているからこそ明開に重い権限を与えたのだ。例え一時腹を立てたとしても、心のどこかでは

納得しているはずだ。それに明開が生きて越に居る事は楓にとっても都合がいい。密偵としても交渉役としても内

側から働きかけられる事は、大いに利のある事だ。

 越との交渉時にもこれが自分の意である印象を強くさせ。いざとなれば楓を去っても構わない、その時は相応の

土産を持っていく、というような事まで匂わせている。

 それに対する越の反応は上々だ。

 越も楓と命運を共にすべきと考えているが、越は越だとも考えている。彼らとしては利害関係の一致さえあれば

よく、それ以上の関係を望んでいない。

 よく勘違いする人が居るが、同盟とは友人関係を築くという意味ではなく、互いに利益になる事のみ協力し合お

うという意味である。だからしばしば盟約は破られるのであり、それを避けるには互いに守る続ける意味があるよ

うにしなければならない。

 そこに情はなく、利害のみがある。それを忘れてはならないのだ。



 越との交渉は上手くまとまった。彼らは納得し、協力を続けてくれるそうだ。

 ただし協力の形は変わる。

 具体的に言えば、越が荘沢を支持し続ける理由を失った。手駒の一つとして関係は続けるだろうが、荘沢に肩入

れする事は止めるだろう。

 後ろ盾を失った荘沢がどう出てくるか。これは一つの不安の種と言えるが、越が居なければ彼には何の力も無い。

反乱を起こしたとしても、明開が望む問題なく平定できる乱になろう。

 自棄になって乱を起こさせるのを最後の役目と考えれば、これはこれで望むべき展開と言える。

 別に誰でも良いのだ。新檜、岳暈、荘沢のいずれか、或いは全てでもいい。互いに潰し合い、暴走して楓にとっ

て都合の良い乱を起こしてくれればいい。彼らはその為に生かされ、力を与えられているのだから。

 後は油断なく見張り、彼らが打ってくる手を一つ一つ丁寧に潰し、絶望を味あわせる。

 とはいえ、あまりやり過ぎれば蜂起する力さえ失ってしまう。このさじ加減が難しい。

 明開はその加減を五人組に一任しようと考えている。

 彼らの力を見る良い機会にもある。もし上手くやれるようであれば、今まで以上に有益な使い方ができるように

なる。それは楓にとっても大いに意味のある事だ。



 楓流は明開の一連の働きには満足していたが、同時に不安でもあった。

 彼に二心があるとは思わないし、全ては楓を思ってしたのだろう事は解っている。少々手荒な真似をする事も解

っていて彼に任せた。

 しかし余りにも刺激し過ぎる。これではどこで乱が起こってもおかしくはない。そして乱が起これば中諸国全体

に広がり、収集が付かなくなる。平定する事は難しくないが、それによる被害と後々への影響は決して小さくない。

 明開という男は乱というものを甘く見過ぎている。

 これが自分一人の杞憂(きゆう)なら良いのだが。趙深からも不安視する声が挙がっている。彼の意見は無視

できるものではない。

 楓の諜報組織の前身となる組織は趙深が一人で作り上げたもので、今は運営を紫雲世(シウンセイ)に任せるよ

うになっているが、最上位に居るのが彼である事は変わらない。大陸の情報に最も精通しているのは趙深である。

明開の動きも当然把握している。

 その趙深が言うのだ。これは深刻であると言わざるを得ない。

 明開は性急に過ぎる。何をそんなに焦っているのかは知らないが、あまりにも結果を追い求める余り、足元を見

る事を疎かにしているのではないか。このままでは繕(つくろ)いきれぬ綻(ほころ)びが出るのも時間の問題で

あろう。

「手綱を締めるべきか」

 しかし締めれば明開の持ち味が失われてしまう。彼のやり方が楓らしくないからこそ価値があるのだ。実績を挙

げている以上、それを無視する事はできない。

 秦との決戦において中諸国安定は非常に大きな意味を持つ。それを得られるのであれば、多少の危険は大目に見

るべきなのかもしれない。

 楓流の脳裏に嫌な記憶がよみがえる。運び屋時代に一度全てを失ってしまった忘れたくても忘れられない苦い思

い出。あんな思いをするくらいなら、少々の危険など・・・・。

 彼もまた焦っていたのかもしれない。結局趙深の苦言も留意はすれど実行まではしなかった。

 中諸国の安定は必ず解決しなければならない問題の一つであり、代案を思いつかない限りは明開に任せるしかない。

 趙深にしても同じで、では明開を外してから具体的にどうするのか、と問われれば上手く答えられる自信はどこ

にも無かった。

 故に彼もそれ以上強くは言えなかったのである。

 不幸な事に。



 明開の読み(望み)通り、狄に乱の兆しが見え始めている。

 それは議会に生じた変化だ。

 今までは議論が出尽くした後で議長が意見をまとめ、決を取る、という形がとられていたのだが。これでは議長

である宜焚の影響力が強くなるのは当然である。

 新檜と岳暈が確保できるだろう票数は同程度で、その議員も議会の状況によっては(宜焚に引きずられる格好で)

意見を変えてしまう事も少なくなく、確実な手段とは言えなくなっていた。

 このままでは自分達の意見が法案として通す事は難しい。しかし二人が協力し合う事など論外である。

 そこで二人が考えたのが荘沢(の確保できるだろう)票の取り合いだ。

 例えその票数が彼らの持つ票の半分にも満たず、また彼らの票以上に確実性のないものだったとしても、二人の

票数が同程度なのだから、荘沢票を取り込む事で勝率を飛躍的に上げる事ができる。

 結局多数決で決まるのだから、過半数以上の票が見込めるのならば宜焚の影響も問題にはならない。

 荘沢自身にとってもこれはありがたい話だ。合議制になったはいいものの思うような存在感を出せず、越に見放

されるのではないかと内心焦(あせ)っていた。そこにこの取り合いだ。言ってみれば荘沢がどちらに付くかで可

決か否決かが決まってしまうので、存在感を大きく増す事になる。

 心底ほっとした。

 安心すれば余力が生まれる。余力が生まれれば人はもっと得ようとする。

 彼も彼なりに野望というものを持ち、それを叶える為に生きている。この状況を活かさない理由は無い。

 小勢力が重きを為すのは、他の大勢力の力が拮抗(きっこう)していてこそである。この場合で言えば、新檜、

岳暈の力が同程度であるからこそ荘沢の持つ力が生きてくる。

 どちらかに肩入れしてはならない。このままどっち付かずの道を行き、第三勢力のまま重きを為すのだ。

 だがそれには一つ問題がある。丁俊の存在だ。

 知っての通り、彼は文官を子供のように尊敬し、その意に応じてこそ狄が良くなるのだと信じている。そしてそ

の事を荘沢と腹を割って話し合い、(丁俊の主観では)納得させたはずだった。それなのに荘沢は時に岳暈側の支

持に回り、文官達の意を退けている。これは裏切りではないか。

 荘沢も丁俊が腹を立てている事は解っているから、その都度自分の背後には越がおり、全てを自分の意志だけで

決める事ができないのだ、とか。自分の方へ付いている奴等は文にも武にも入れない鼻摘み者ばかり、いくら言い

聞かせても通じないのだ、などと言い訳しているが。いくら丁俊相手とはいえ、長くは持たないだろう。

 丁俊という男は何をしでかすか解らない所がある。その上彼の剛勇は誰もが一目を置く程だ。例えば文官らから

何事か言い含められれば、非常の手段に出てもおかしくはない。

 新檜と岳暈の二人も荘沢に決定権のある現状を腹に据えかねており、特に岳暈は荘沢との関係から必要以上に危

機感を抱き始めている、という話しも聞く。

 背後に越が居るからあまり強引な事はできないだろうとしても、このまま二人が手をこまぬいて見ているとは思

えない。最悪の状況として、敵の敵は味方の理屈から文武が一時矛を収め、まずは荘沢の力を削ごうではないか、

と考える可能性はある。

 力を失えば越も興味を失い、荘沢に遠慮する必要自体がなくなるのだから、これは効果的な手段と言えなくもない。

 後ろ盾あって初めて成り立つ権威とはこのように脆(もろ)く、儚いものである。

 楽観視してはいられない。今の内に、はっきりとした形で、対策をとっておく必要があった。



 荘沢の言う対策とは、岳暈の力を奪う事。つまり軍事力を得る事であった。

 蝙蝠(こうもり)で居る事には限界がある。しかし文武どちらに付いても用済みになれば始末される。生き残る

には借り物ではない力を得るしかない。幸いにも彼は以前、一軍の将と言える立場にあった。軍事や軍隊運営に関

して素人ではない。

 方法としては、まず新檜に近付く。岳暈の力を奪い、自分の権威を増す為には必要な手順だ。

 しかし勿論これだけでは足りない。致命的な問題として、荘沢は岳暈に比べてどうしても頼りなく映るという点

がある。兵は頼りない将に付きたがらない。皮肉だが、やはり誰かの手を借りなければならない。

 となれば丁俊が適任だろう。武勇に優れ、兵達にも好かれている。彼に直接指揮をさせるなら印象は随分と変わ

るはずだ。文官に任せれば説得も容易である。

 後は岳暈の後ろ盾である楓の意を得られれば、成り代わる事は難しくない。

 幸い楓は文官寄りであるようだし、文官を味方に付けていれば、文官と対立して無用のいざこざを起こす岳暈よ

りも評価してくれるかもしれない。

 何なら狄を差し出してもいい。梁の法瑞(ホウズイ)のように国を担保にして支配者に成り上がればいい。

 自信はあった。

 新檜、岳暈は現状に焦り、付け入る隙はいくらでもある。越も後押ししてくれるだろうし、相応の見返りを渡せ

ばもっと直接的な協力まで得られるかもしれない。文官達も国家運営には必要な人材であるし、表向きは彼らに全

てを任せてもいい。

 結局、楓の意さえ得られればどうにでもなる。結局、新檜、岳暈も荘沢と同じ。借り物の権威がなければ無力で

ある。

 問題があるとすれば、どうやって楓に近付くかだ。

 岳暈陣営に居た時も、荘沢には楓の使者と話す機会を与えられなかった。越を頼るのが一番現実的だが、その代

償は大きい。

 だが他に手があるだろうか。いやしかし。

 何度考えても決断までに後一歩踏み込めなかった。

 荘沢に明開から使者が遣わされたのは、丁度そのように悩んでいた時であった。

 使者から手渡された書状には、楓が現状を望んでいない事、楊岱同様に宜焚をこの国から解きたいと考えている

事、などが記してあった。そしてその為なら協力を惜しまず、もし上手く収める事ができたなら相応の礼をすると

結んである。

 これこそ荘沢が望んでいた楓の内意そのものだ。

 故に警戒しなければならない。自分が望んだ時に望んだものが向こうからやってくる。冷静に考えればありえな

い事であり、そこには何者かの、いやはっきりと明開、そして楓の意図が見えている。うまうまと乗ればとんでも

ない目に遭わされてしまうだろう。

 だから初めは否定したのだが。一時が過ぎると、これは逆に好機であるのかもしれないと思えてきた。

 例え自分が踊らされているだけであったとしても、楓の同意が得られる事に違いはないし。ここまではっきりと

形に残して伝えてくるという事は、楓もまた覚悟しているという事。それを断れば、楓に反する意思ありと見なさ

れるかもしれない。

 そうなれば楓から見放され、越も楓の意を失った彼に対する態度を変えるだろう。

 初めから荘沢に決定権は無かった。楓にそう望まれた以上、無条件に呑まなければならない。弱者の辛い所である。

 楓らしくない強引な手だと思ったが、荘沢相手にそこまで考慮する必要はないという事か。

「わしも舐められたものよ。だが、それならそれで利用できよう。岳暈がわしを生かさねばならなかったように、

楓にもわしを生かさねばならぬ理由を作れば良い。楓の同意があれば文官共を動かす事も容易になるだろうし。結

局行く場所が同じなら、誰が敷いた道であろうと変わらない。むしろ向こうが用意してくれるのだから幸運と呼ぶ

べきだろうて。利用しない手はあるまい」

 様々に思う事はあったが、荘沢は楓に利用されるままにする事に決めた。

 どの道、楓が大陸統一をすれば、誰もがその意に従うしかなくなる。どうせ同じなら早い内に尻尾を振っておい

た方がかわいがられるというもの。

 遅いか早いかだけの違いなら早くする方が良いに決まっている。

 楓に付いているだけで歴史に名を残すには充分なのだ。今更老いた野望にすがる必要は無かろう。

 岳暈、新檜らのような目先の出世欲に囚われる若造とは違うのだ。

 だがもし全てが上手くいき、そしてまた千載一遇(せんざいいちぐう)の好機でも訪れたなら、その時は、その

時はきっと・・・・。

 荘沢の返事に明開も満足した。

 これによってどれ程の乱が起こるかは解らない。下手すればあっさりと上が替わって終わりになるかもしれない。

しかし宜焚を狄から安全に切り離す事ができるなら、それだけで大きな功績となる。一度に全てを行う必要はない

のだ。一つずつでいい。

「どちらにせよ、楓の支配力は強くなる。新檜ら文官派の力も強くなるだろうから、もう一工夫必要だが。一手目

としては悪くない。余計な事をしなければ、このまま上手く運ぶだろうぜ。面倒な話はそれからよ」

 望む結果までの過程としてこれ以上のものはない。

 そう考え、様々に修正を迫られている現実にも満足する事にした。

 最高の結果ではないが、それに近いものではあるはずだと。




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