4-0.軍人


 軍の階級は元帥、将官、佐官、尉官、下士官(曹長、軍曹、伍長、兵卒)となっている。

 この中でも元帥は特別で元帥府を開け、ある程度の自治権がある等様々な特権が与えられている。

 この軍と言うモノは警備署が出来てからは市内の警備をする事も無くなり、そう言う意味で国民からはあ

まり馴染みの無い存在となってしまったのだが。その軍事力は当然ながら国内一を誇る機関である。

 ただ警備署も元々は軍を解体して出来たものと言え、その規模、資金等は盛時よりも随分縮小されて来た。

 そして情報消失後は国家間の戦争など起こす余裕も無く、残された数少ない軍備兵器等を使って災害救助

や復興などを支える組織として主に運営されており。傭兵やヴァンパイアハンター、そして警備官が居る今

となってはさほど軍事的存在理由も無く、単に階級を定めるだけの便宜的なモノに過ぎなくなっていた。

 何しろ最早強大な力を持つ兵器を生み出す技術力は無く、運良く残された兵器達のほとんども朽ちて使用

に耐えられなくなっているのだからどうしようも無い。

 それでも兵器研究は怠っておらず、軍には常に現代での最新鋭の兵器が与えられ、辛うじてその軍事力を

保っているし、その組織性は現存するどの組織よりも高いと言える。

 現在は主に国境警備と女王高官近辺の近衛兵、後は大規模な作戦(対ヴァンパイア戦等)を行う時に警

備官達と行動を共にする事があるようだ。

 警備官を駐屯兵、軍兵を派遣軍、そう考えれば解り易いかも知れない。


 軍と言うものがそもそもいつ出来たのか。それははっきりとした事は解らないが、人間が集団の力を利用

して地上の覇権を手に入れたとすれば。おそらくその集団の力こそが、人がその誕生と共に持っていた唯一

とも言える力であり、そう考えれば人が存在する限りは決して無くならないものであろう。

 それが必要か不必要か、今となってはあまり関係無いのかも知れない。哲学めいた事は良く解らないが、

あれば安心出来る、そんな組織になっているのだろう。

 そして確かに便利な存在でもあった。

 情報消失時、頼れるものは人の記憶だけとなり、当然のように人々は混乱を来した。そして残された僅か

な記憶に人々は縋り、身を寄せ、そして何よりも大樹を求めた。その中でも確かな権威をその階級証で明示

した唯一とも言える力者こそが、この軍人達であったのである。

 その残された唯一の力らしきモノである権威に崇拝にも似た気持を起こし、その更に尊貴であった王を至

上のモノと崇めるに近くなった事は自然な流れであったとも言える。人の位と言うモノに再び人々の関心が

深く移ったのもこの時からであった。

 そして現在の王政が復活したのもこの時からであり、それまで有名無実へと堕ちた王族達の権威を一気に

浮上させる事となった。更にその気分を利用し、その当世の女王は魔術のような立ち回りを見せ、民主主義

から専制君主制へと引き戻す事に成功したのである。

 しかし国民の自尊心も多分に残っており、如何に情勢を利用してもそれを全て覆す事は不可能であったと

見え、少なからず民主制も残る事となった。こうして今の王も民も共に権利を高らかに(多分に滑稽味はあ

るものの)掲げる時代へと到達したのである。


 当然軍の権威も鋭く増し、階級者は当たり前のように貴族へと転身する者も増え、その為に古来からの貴

族達と争う事もあった。しかしお互いにその愚を悟り、婚姻関係を結ぶなど妥協点を作る事でお互いを力あ

るままに残そうとした。現在残る貴族達に将官を持つ者が多いのもその為である。

 ただ軍人達もその最高位たる元帥だけは守りたかったらしく、その結果貴族と婚姻を結ばぬ軍貴、純潔の

軍人たる新しい貴種を生み出した。

 それが今のマクレガー家である。

 マクレガーの当主は代々元帥を拝命し、リグルド公爵などと同じように王に匹敵する権力を得た。

 ただ不思議な程代々の当主は権力闘争などには感心を示さず、一種超然とした態度で王と高官達の権力闘

争を静観してきた。一つにはそうする事で民やそれから生まれる軍兵達からの信望を集め、自らの地位をよ

り堅固にし、専守防衛に努める事で疲弊を抑え、更にそれを強固にしたかったのかも知れない。

 それはこの不思議な一族の不思議な処世術と言えよう。

 現在の当主はガリオン、ガリオン=マクレガー。

 彼もまた超然と女王と公爵の争いを静観しているように見えた。


                            王立歴史院特殊資料 マクレガー より抜粋




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